消費者支援機構関西とフォーシーズ株式会社との間の訴訟に関する上告審判決について

差止請求詳細

事業分類

金融業,保険業

事業者等名

フォーシーズ株式会社

事案の内容

 本件は、適格消費者団体である特定非営利活動法人消費者支援機構関西(以下「消費者支援機構関西」という。)が、家賃債務保証業を営むフォーシーズ株式会社(以下「フォーシーズ」という。)に対し、フォーシーズが消費者を相手方として締結する次の契約(以下「本件契約」という。)に含まれる次の契約条項(以下「本件契約条項」という。)は、消費者契約法(以下「法」という。)第8条第1項第3号又は第10条(※)に規定する消費者契約の条項に該当してその効力が否定されるものであるとして、法第12条第3項の規定に基づき、本件契約条項を含む消費者契約の申込み又は承諾の意思表示の差止め、本件契約条項が記載された契約書ひな形が印刷された契約書用紙の廃棄及び被告の従業員らへの指示を徹底する旨の書面の配布を求めた事案である。

第1審判決は(大阪地方裁判所が令和元年6月21日に言渡し)、消費者支援機構関西の請求を一部認容した(フォーシーズに対し、本件契約書第18条第2項第2号を含む契約の申込み又は承諾の意思表示の差止め、本件契約書第18条第2項第2号が記載された契約書ひな形が印刷された契約書用紙の廃棄等を命じた。)ところ、消費者支援機構関西及びフォーシーズは、当該判決を不服として大阪高等裁判所に控訴した。

 原判決は(大阪高等裁判所が令和3年3月5日に言渡し)、フォーシーズ(以下「被上告人」という。)の敗訴部分を取り消して、その部分につき消費者支援機構関西の請求を棄却するとともに、消費者支援機構関西の控訴を棄却したところ、消費者支援機構関西(以下「上告人」という。)は、当該判決を不服として最高裁判所に上告及び上告受理申立てをした。

<本件契約>
 被上告人が、住宅等の賃貸借契約(以下「原契約」という。)の当事者たる賃貸人や賃借人(以下「原契約賃借人」という。)等との間で締結する、原契約に係る賃料等債務につき原契約賃借人から保証を受託することを含む「住み替えかんたんシステム保証契約」と称する契約。

<本件契約条項>(上告審において主たる争点となった条項を示す)
① 本件契約書第13条第1項前段のような、家賃債務保証受託者である被上告人に原契約を無催告解除する権限を付与する趣旨の条項
② 本件契約書第18条第2項第2号のような、原契約賃借人が賃料等の支払いを2か月以上怠り、被上告人において合理的な手段を尽くしても原契約賃借人本人と連絡が取れない状況の下、電気・ガス・水道の利用状況や郵便物の状況等から原契約の目的たる賃借物件(以下単に「賃借物件」という。)を相当期間利用していないものと認められ、かつ、賃借物件を再び占有使用しない原契約賃借人の意思が客観的に看取できる事情が存するときに、原契約賃借人が明示的に異議を述べない限り、賃借物件の明渡しがあったものとみなす権限を被上告人に付与する条項


(※)消費者契約法

(事業者の損害賠償の責任を免除する条項等の無効)

第八条 次に掲げる消費者契約の条項は、無効とする。

一・二 〔略〕

三 消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する民法の規定による責任の全部を免除する条項

四・五 〔略〕

2〔略〕

(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)

第十条 民法、商法(明治三十二年法律第四十八号)その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

(注)上記の訴えが提起された日現在の規定

差止請求根拠条文

消費者契約法第8条第1項第3号、消費者契約法第10条

結果

 最高裁判所は、令和4年12月12日、次のとおり判断して、上記本件契約条項①及び②に係る上告人の請求のうち、これらの契約条項を含む消費者契約の申込み又は承諾の意思表示の差止め及びこれらの契約条項が記載された契約書ひな形が印刷された契約書用紙の廃棄を求める部分を認め、その余の上告を棄却又は却下した。

当該裁判の主たる争点

ア 主たる争点
 ⅰ)本件契約書第13条第1項前段が法第10条に違反するか
 ⅱ)本件契約書第18条第2項第2号が法第10条に違反するか
イ 主たる争点についての裁判所の判断の概要
【争点ⅰ】
 (ア)本件契約書第13条第1項前段が法第10条に規定する消費者契約の条項に該当するか否かを検討するに当たり、まず、本件契約書第13条第1項前段がいかなる内容を定めた条項であるのかを検討する。
 ⅰ 前記事実関係等によれば、賃借人に賃料等の支払の遅滞がある場合、被上告人は賃貸人に対して賃料債務等につき連帯保証債務を履行する義務を負う一方、連帯保証債務の履行を受けた賃貸人は原契約を解除する必要に迫られないことから、被上告人が無制限に連帯保証債務を履行し続けなければならないという不利益を被るおそれがある。本件契約書第13条第1項前段は、このような不利益を回避するため、賃料債務等の連帯保証人である被上告人に原契約の解除権を付与する趣旨に出たものと解される。そして、本件契約書第13条第1項前段は、無催告で原契約を解除できる場合について、単に「賃借人が支払を怠った賃料等の合計額が賃料3か月分以上に達したとき」と定めるにとどまり、その文言上、このほかには何ら限定を加えておらず、賃料債務等につき連帯保証債務が履行されたか否かによる区別もしていない上、被上告人自身が、本件訴訟において、連帯保証債務を履行した場合であっても、本件契約書第13条第1項前段に基づいて無催告で原契約を解除することができる旨を主張している(記録によれば、被上告人は、現にそのような取扱いをしていることがうかがわれる。)。これらに鑑みると、本件契約書第13条第1項前段は、所定の賃料等の支払の遅滞が生じさえすれば、賃料債務等につき連帯保証債務が履行されていない場合だけでなく、その履行がされたことにより、賃貸人との関係において賃借人の賃料債務等が消滅した場合であっても、連帯保証人である被上告人が原契約につき無催告で解除権を行使することができる旨を定めた条項であると解される。
 ⅱ 原判決の引用する前記第一小法廷判決は、賃貸人が無催告で賃貸借契約を解除することができる旨を定めた特約条項について、賃料が約定の期日に支払われず、そのため契約を解除するに当たり催告をしなくてもあながち不合理とは認められないような事情が存する場合に、無催告で解除権を行使することが許される旨を定めた約定であると解したものである。他方で、本件契約書第13条第1項前段は、賃貸人ではなく、賃料債務等の連帯保証人である被上告人が原契約につき無催告で解除権を行使することができるとするものである上、連帯保証債務が履行されたことにより、賃貸人との関係において賃借人の賃料債務等が消滅した場合であっても、無催告で原契約を解除することができるとするものであるから、前記第一小法廷判決が判示した上記特約条項とはおよそかけ離れた内容のものというほかない。また、法第12条第3項本文に基づく差止請求の制度は、消費者と事業者との間の取引における同種の紛争の発生又は拡散を未然に防止し、もって消費者の利益を擁護することを目的とするものであるところ、上記差止請求の訴訟において、信義則、条理等を考慮して規範的な観点から契約の条項の文言を補う限定解釈をした場合には、解釈について疑義の生ずる不明確な条項が有効なものとして引き続き使用され、かえって消費者の利益を損なうおそれがあることに鑑みると、本件訴訟において、無催告で原契約を解除できる場合につき上記ⅰにおいてみたとおり何ら限定を加えていない本件契約書第13条第1項前段について上記の限定解釈をすることは相当でない。そうすると、前記第一小法廷判決が示した法理が本件契約書第13条第1項前段に及ぶということはできず、本件契約書第13条第1項前段について、被上告人が賃料等の支払の遅滞を理由に原契約を解除するに当たり催告をしなくてもあながち不合理とは認められないような事情が存する場合に、無催告で解除権を行使することが許される旨を定めた条項であると解することはできないというべきである。
 (イ)そこで、本件契約書第13条第1項前段が法第10条に規定する消費者契約の条項に当たるか否かについて検討する。
 ⅰ まず、法第10条は、消費者契約の条項が、法令中の公の秩序に関しない規定、すなわち任意規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重するものであることを要件としている。
 一般に、賃借人に賃料等の支払の遅滞がある場合、原契約の解除権を行使することができるのは、その当事者である賃貸人であって、賃料債務等の連帯保証人ではない。また、上記の場合において、賃料債務等につき連帯保証債務の履行がないときは、賃貸人が上記遅滞を理由に原契約を解除するには賃料等の支払につき民法第541条本文に規定する履行の催告を要し、無催告で原契約を解除するには同法第542条第1項第5号に掲げる場合等に該当することを要する。他方で、上記の連帯保証債務の履行があるときは、賃貸人との関係においては賃借人の賃料債務等が消滅するため、賃貸人は、上記遅滞を理由に原契約を解除することはできず、賃借人にその義務に違反し信頼関係を裏切って賃貸借関係の継続を著しく困難ならしめるような不信行為があるなどの特段の事情があるときに限り、無催告で原契約を解除することができるにとどまると解される。
 そうすると、本件契約書第13条第1項前段は、賃借人が支払を怠った賃料等の合計額が賃料3か月分以上に達した場合、賃料債務等の連帯保証人である被上告人が何らの限定なく原契約につき無催告で解除権を行使することができるものとしている点において、任意規定の適用による場合に比し、消費者である賃借人の権利を制限するものというべきである。
 ⅱ 次に、法第10条は、消費者契約の条項が、民法第1条第2項に規定する基本原則、すなわち信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであることを要件としている。
 原契約は、当事者間の信頼関係を基礎とする継続的契約であるところ、その解除は、賃借人の生活の基盤を失わせるという重大な事態を招来し得るものであるから、契約関係の解消に先立ち、賃借人に賃料債務等の履行について最終的な考慮の機会を与えるため、その催告を行う必要性は大きいということができる。ところが、本件契約書第13条第1項前段は、所定の賃料等の支払の遅滞が生じた場合、原契約の当事者でもない被上告人がその一存で何らの限定なく原契約につき無催告で解除権を行使することができるとするものであるから、賃借人が重大な不利益を被るおそれがあるということができる。
 したがって、本件契約書第13条第1項前段は、消費者である賃借人と事業者である被上告人の各利益の間に看過し得ない不均衡をもたらし、当事者間の衡平を害するものであるから、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであるというべきである。
 ⅲ よって、本件契約書第13条第1項前段は、法第10条に規定する消費者契約の条項に当たるというべきである。

【争点ⅱ】
 (ア)本件契約書第18条第2項第2号には原契約が終了している場合に限定して適用される条項であることを示す文言はないこと、被上告人が、本件訴訟において、原契約が終了していない場合であっても、本件契約書第18条第2項第2号の適用がある旨を主張していること等に鑑みると、本件契約書第18条第2項第2号は、原契約が終了している場合だけでなく、原契約が終了していない場合においても、①賃借人が賃料等の支払を2か月以上怠ったこと、②被上告人が合理的な手段を尽くしても賃借人本人と連絡が取れない状況にあること、③電気・ガス・水道の利用状況や郵便物の状況等から本件建物を相当期間利用していないものと認められること、④本件建物を再び占有使用しない賃借人の意思が客観的に看取できる事情が存することという四つの要件(以下「本件4要件」という。)を満たすときは、賃借人が明示的に異議を述べない限り、被上告人が本件建物の明渡しがあったものとみなすことができる旨を定めた条項であると解される。
 そして、本件契約書第18条第2項第2号には原契約を終了させる権限を被上告人に付与する趣旨を含むことをうかがわせる文言は存しないのであるから、本件契約書第18条第2項第2号について上記の趣旨の条項であると解することはできないというべきである。
 (イ)そこで、本件契約書第18条第2項第2号が法第10条に規定する消費者契約の条項に当たるか否かについて検討する。
 ⅰ 被上告人が、原契約が終了していない場合において、本件契約書第18 条第2項第2号に基づいて本件建物の明渡しがあったものとみなしたときは、賃借人は、本件建物に対する使用収益権が消滅していないのに、原契約の当事者でもない被上告人の一存で、その使用収益権が制限されることとなる。そのため、本件契約書第18条第2項第2号は、この点において、任意規定の適用による場合に比し、消費者である賃借人の権利を制限するものというべきである。
 そして、このようなときには、賃借人は、本件建物に対する使用収益権が一方的に制限されることになる上、本件建物の明渡義務を負っていないにもかかわらず、賃貸人が賃借人に対して本件建物の明渡請求権を有し、これが法律に定める手続によることなく実現されたのと同様の状態に置かれるのであって、著しく不当というべきである。
 また、本件4要件のうち、本件建物を再び占有使用しない賃借人の意思が客観的に看取できる事情が存することという要件は、その内容が一義的に明らかでないため、賃借人は、いかなる場合に本件契約書第18条第2項第2号の適用があるのかを的確に判断することができず、不利益を被るおそれがある。なお、本件契約書第18条第2項第2号は、賃借人が明示的に異議を述べた場合には、被上告人が本件建物の明渡しがあったとみなすことができないものとしているが、賃借人が異議を述べる機会が確保されているわけではないから、賃借人の不利益を回避する手段として十分でない。
 以上によれば、本件契約書第18条第2項第2号は、消費者である賃借人と事業者である被上告人の各利益の間に看過し得ない不均衡をもたらし、当事者間の衡平を害するものであるから、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであるというべきである。
 ⅱ よって、本件契約書第18条第2項第2号は、法第10条に規定する消費者契約の条項に当たるというべきである。

ウ 結論
 以上のとおりであるから、原判決主文第1項を破棄して、被上告人の控訴を棄却し、原判決中、本件契約書第13条第1項前段に係る請求に関する部分を主文第2項のとおり変更するとともに、上告人の本件契約書第18条第2項第2号に係るその余の請求に関する上告を棄却することとする。

参考資料

判決日・事案終了日

令和4年12月12日

ステータス

終了

適格消費者団体

消費者支援機構関西

お問い合わせ先

06-6945-0729

その他

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消費者庁公表資料

この事案の経過