消費者支援機構関西とフォーシーズ株式会社との間の訴訟に関する控訴審判決について

差止請求詳細

事業分類

金融業,保険業

事業者等名

フォーシーズ株式会社

事案の内容

 本件は、適格消費者団体である特定非営利活動法人消費者支援機構関西(以下「消費者支援機構関西」という。)が、家賃債務保証業を営むフォーシーズ株式会社(以下「フォーシーズ」という。)に対し、フォーシーズが消費者を相手方として締結する次の契約(以下「本件契約」という。)に含まれる次の契約条項(以下「本件契約条項」という。)は、消費者契約法(以下「法」という。)第8条第1項第3号及び第10条(※)に規定する消費者契約の条項に該当してその効力が否定されるものであるとして、法第12条第3項の規定に基づき、本件契約条項を含む消費者契約の申込み又は承諾の意思表示の差止め、本件契約条項が記載された契約書ひな形が印刷された契約書用紙の廃棄及び被告の従業員らへの指示を徹底する旨の書面の配布を求めた事案である。
 原判決は(大阪地方裁判所が令和元年6月21日に言渡し)、消費者支援機構関西の請求を一部認容した(フォーシーズに対し、本件契約第18条第2項第2号を含む契約の申込み又は承諾の意思表示の差止め、本件契約第18条第2項第2号が記載された契約書ひな形が印刷された契約書用紙の廃棄等を命じた。)ところ、消費者支援機構関西(以下「一審原告」という。)及びフォーシーズ(以下「一審被告」という。)は、当該判決を不服として大阪高等裁判所に控訴した。

<本件契約>
 一審被告が、住宅等の賃貸借契約(以下「原契約」という。)の当事者たる賃貸人(以下「原契約賃貸人」という。)や賃借人(以下「原契約賃借人」という。)等との間で締結する、原契約に係る賃料等債務につき原契約賃借人から保証を受託することを含む「住み替えかんたんシステム保証契約」と称する契約。なお、本件契約に係る実際の契約条項については、別紙契約条項目録を参照のこと。
<本件契約条項>
① 本件契約第13条第1項前段のような、家賃債務保証受託者である一審被告に原契約を無催告解除する権限を付与する趣旨の条項
② 本件契約第13条第1項後段のような、一審被告が原契約の無催告解除権を行使することについて原契約賃借人に異議がない旨の確認をさせる趣旨の条項
③ 本件契約第14条第1項のような、一審被告が原契約賃借人に対して事前に通知することなく原契約賃貸人に対する保証債務を履行することができるとする条項
④ 本件契約第14条第4項のような、一審被告が原契約賃借人に対し求償権を行使するのに対し、原契約賃借人及び連帯保証人が原契約賃貸人に対する抗弁をもって被告への弁済を拒否できないことをあらかじめ承諾する条項
⑤ 本件契約第18条第2項第2号のような、原契約賃借人が賃料等の支払いを2箇月以上怠り、一審被告において合理的な手段を尽くしても原契約賃借人本人と連絡が取れない状況の下、電気・ガス・水道の利用状況や郵便物の状況等から原契約の目的たる賃借物件(以下、単に「賃借物件」という。)を相当期間利用していないものと認められ、かつ、賃借物件を再び占有使用しない原契約賃借人の意思が客観的に看取できる事情が存するときに、原契約賃借人が明示的に異議を述べない限り、賃借物件の明渡しがあったものとみなす権限を一審被告に付与する条項
⑥ 本件契約第18条第3項のような、一審被告が、第18条第2項第2号に基づき、原契約賃借人が賃料等の支払を2箇月以上怠り、一審被告において合理的な手段を尽くしても原契約賃借人本人と連絡が取れない状況の下、電気・ガス•水道の利用状況や郵便物の状況等から賃借物件を相当期間利用していないものと認められ、かつ、賃借物件を再び占有使用しない原契約賃借人の意思が客観的に看取できる事情が存するときに、原契約賃借人が明示的に異議を述べない限り、賃借物件の明渡しがあったものとみなす場合において、一審被告が本件建物内等に残置する原契約賃借人の動産類を任意に搬出・保管することに原契約賃借人が異議を述べないとする条項
⑦ 本件契約第19条第1項のような、一審被告が、第18条第2項第2号に基づき、原契約賃借人が賃料等の支払を2箇月以上怠り、一審被告において合理的な手段を尽くしても原契約賃借人本人と連絡がとれない状況の下、電気・ガス・水道の利用状況や郵便物の状況等から賃借物件を相当期間利用していないものと認められ、かつ、賃借物件を再び占有使用しない原契約賃借人の意思が客観的に看取できる事情が存するときに、原契約賃借人が明示的に異議を述べない限り、賃借物件の明渡しがあったものとみなし、第18条第3項に基づき本件建物内等に残置する原契約賃借人の動産類を任意に搬出・保管する場合において、原契約賃借人が当該搬出の日から1箇月以内に引き取らないものについて、原契約賃借人は当該動産類全部の所有権を放棄し、以後、一審被告が随意にこれを処分することに異議を述べないとする条項
⑧ 本件契約第19条第2項のような、一審被告が、第18条第2項第2号に基づき、原契約賃借人が賃料等の支払を2箇月以上怠り、一審被告において合理的な手段を尽くしても原契約賃借人本人と連絡が取れない状況の下、電気・ガス・水道の利用状況や郵便物の状況等から賃借物件を相当期間利用していないものと認められ、かつ、賃借物件を再び占有使用しない原契約賃借人の意思が客観的に看取できる事情が存するときに、原契約賃借人が明示的に異議を述べない限り、賃借物件の明渡しがあったものとみなし、第18条第3項に基づき本件建物内等に残置する原契約賃借人の動産類を任意に搬出・保管する場合において、一審被告が搬出して保管している原契約賃借人の動産類について、原契約賃借人が、その保管料として月額1万円(税別)を一審被告に支払うほか、当該動産類の搬出・処分に要した費用を一審被告に支払うとする条項

(※)消費者契約法
(事業者の損害賠償の責任を免除する条項等の無効)
第八条 次に掲げる消費者契約の条項は、無効とする。
一・二 〔略〕
三 消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する民法の規定による責任の全部を免除する条項
四・五 〔略〕
2 〔略〕
(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
第十条 民法、商法(明治三十二年法律第四十八号)その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。
(注)上記の訴えが提起された日現在の規定

差止請求根拠条文

消費者契約法第8条第1項第3号、消費者契約法第10条

結果

 大阪高等裁判所は、令和3年3月5日、次のとおり判断して、一審被告の敗訴部分を取り消して、その部分につき一審原告の請求を棄却するとともに、一審原告の控訴を棄却した。なお、一審原告は、当該判決を不服として上告及び上告受理申立てを行った(後に上告は取り下げ、最高裁が上告審として受理した)。

当該裁判の主たる争点

ア 主たる争点
 (ア)本件契約第13条第1項前段が法に違反するか
 (イ)本件契約第13条第1項後段が法に違反するか
 (ウ)本件契約第14条第1項及び第4項が法に違反するか
 (エ)本件契約第18条第2項第2号が法に違反するか
 (オ)本件契約第18条第2項第2号、同条第3項、第19条第1項及び同条第2項が一体として法に違反するか
イ 主たる争点についての裁判所の判断の概要
 (ア)本件契約第13条第1項前段が法に違反するか
 ⅰ 本件契約第13条第1項前段の解釈
 ㈠ 家屋の賃貸借契約において、一般に、賃借人が賃料を1箇月分でも遅滞したときは催告を要せず契約を解除することができる旨を定めた特約条項については、賃貸借契約が当事者間の信頼関係を基礎とする継続的契約関係であることに鑑み、賃料が約定の期日に支払われず、このため契約を解除するに当たり催告をしなくてもあながち不合理とは認められないような事情が存する場合に、無催告での解除権の行使を許す旨を定めた規定であると解されている(最高裁昭和43年判決)。また、賃料の不払に対し賃貸人からの催告があったにもかかわらず、なお賃料が支払われない場合であっても、当事者間の信頼関係を破壊するものとは認められない特段の事情があるときは、債務不履行による賃貸借契約の解除は認められないものと解されている(最高裁昭和39年7月28日第三小法廷判決・民集第18巻6号1220頁等)。そして、これらの解釈は、最高裁判所における判例法理として確立しており、これを前提とした裁判実務が数十年という長期間にわたり確固たるものとして定着してきていることは裁判所に顕著である。そして、上記判例法理は賃貸借契約が当事者間の信頼関係を基礎とする継続的契約関係であることを根拠とするものであり、賃貸借契約のこのような契約類型としての性質は今日においても変わるところがないことからすれば、上記判例法理は、現時点において賃貸借契約を規律する実体法規範の一部を成しているということができる。また、上記のような判例法理の根拠に鑑みると、上記判例法理は、契約当事者である賃貸人による解除権の行使の場合に限らず、賃貸人から解除権行使の権限を付与された者による当該解除権の行使の場合にも当然に適用されるものというべきである。
 そうすると、一般的に、家屋の賃貸借契約においては、上記判例法理が前提とされているのが通常であると解されるところ、一審被告があえて本件契約の適用について上記判例法理を除外していることをうかがわせる事情は何ら見当たらない。
したがって、本件契約においては、上記判例法理が当然の前提とされていると解することができるというべきであり、これは、原契約賃貸人による解除権の行使に限らず、一審被告が本件契約第13条第1項前段によって付与された解除権を行使される場合にも妥当するものということができる。
 ㈡ 以上によれば、本件契約第13条第1項前段は、上記(一)のいわゆる無催告特約の効力に関する判例法理が適用されることにより、原契約賃借人が支払いを怠った賃料等及び変動費の合計額が賃料3箇月分以上に達したことという要件のほか、契約を解除するに当たり催告をしなくてもあながち不合理とは認められないような事情があることを要件として、一審被告による無催告解除権の行使を認める規定であると解される。
 ⅱ 本件契約第13条第1項前段の法第10条の該当性
 ㈠ 解除の要件の点について
賃借人の賃料支払義務が賃貸借契約の要素を成す賃借人の基本的かつ重要な債務であることからすれば、賃借人が支払を怠った賃料等及び変動費の合計額が賃料3箇月分以上に達するという事態は、それ自体が、賃貸借契約の基礎を成す当事者間の信頼関係を大きく損なう事情というべきであり、そのことに加えて、契約を解除するに当たり催告をしなくてもあながち不合理とは認められないような事情がある場合に、原契約賃借人が原契約の解除前に履行の催告を受けられない不利益の程度がさして大きくないことは、おのずから明らかというべきであるから、上記条項は、信義則に反して消費者である原契約賃借人の利益を一方的に害するものとはいえない。
 したがって、本件契約第13条第1項前段が、無催告解除を認めている点については、法第10条に該当するものとは認められない。
 ㈡ 解除権行使の主体の点について 
 一審被告が上記条項に基づいて無催告解除権を行使するためには、上記条項が明文をもって定める、原契約賃借人が支払を怠った賃料等及び変動費の合計額が賃料3箇月分以上に達したことという要件に加えて、上記ⅰ㈠のいわゆる無催告解除の効力に関する判例法理の適用により、契約を解除するに当たり催告をしなくてもあながち不合理とは認められないような事情があることが要件となるものと解される。そうであるところ、そもそも本件契約をめぐる原契約賃貸人と一審被告との利害状況に鑑み、民法の原則を修正して、原契約賃借人による債務不履行のうち、特に一審被告の負う経済的負担が拡大していく危険の高い賃料等及び変動費の不払が一定の範囲を超えた場合に、原契約の解除権を原契約の契約当事者でない一審被告にも付与し、もって、原契約が継続することにより一審被告の経済的負担が限度なく増大していく事態を、一審被告自らが解消することができるようにしたのが、本件契約第13条第1項前段の規定の趣旨であるということができる。そして、このような本件第13条第1項前段の趣旨・目的には、相応の合理性があるということができる。
上記条項が無催告解除の要件として明文をもって定める、賃借人が支払を怠った賃料等及び変動費の合計額が賃料3箇月分以上に達するという事態は、それ自体が、賃貸借契約の基礎を成す当事者間の信頼関係を大きく損なう事情というべきであることに加えて、契約を解除するに当たり催告をしなくてもあながち不合理とは認められないような事情がある場合に初めて、一審被告の上記条項に基づく解除権の行使がその効力を有することに鑑みると、これらの判例法理の適用を前提とした上記条項による無催告解除の要件を満たす場合に一審被告が上記条項に基づく解除権を行使し得るものとすることによって原契約賃借人が受ける上記のような不利益の程度は、必ずしも大きいということはできず、なお限定的なものにとどまるというべきである。
 以上のとおり、本件契約第13条第1項前段が原契約の契約当事者でない一審被告に解除権を付与していることについては、相応の合理性がある反面、これによる原契約賃借人の不利益は限定的なものにとどまるものということができることからすれば、本件契約第13条第1項前段が一審被告に解除権を付与していることが信義則に反して消費者である原契約賃借人の利益を一方的に害するものに当たるということはできない。
 ㈢ 小括
 以上によれば、本件契約第13条第1項前段が法第10条に該当するということはできない。
 したがって、一審被告に対し、本件契約第13条第1項のような、家賃債務保証受託者である一審被告に原契約を無催告解除する権限を付与する趣旨の条項を含む消費者契約の申込み又は承諾の意思表示の差止め等を求める一審原告の請求は、理由がないというべきである。

(イ)本件契約第13条第1項後段が法に違反するか
本件契約第13条第1項後段は、その文言の通常の意味からして、一審原告が主張するように、原契約賃借人が有すべき損害賠償請求権を放棄させたり、原契約賃借人において一審被告による解除権行使の効力を争う権利を放棄させたりする条項であるとは解されないから、同条項が法第8条第1項第3号の規定に該当するものとはいえず、また、法第10条に該当するものともいえない。
したがって、本件契約第13条第1項のような、一審被告が原契約の無催告解除権を行使することについて、原契約賃借人に異議がない旨の確認をさせる趣旨の条項を含む消費者契約の申込み又は承諾の意思表示の差止め等を求める一審原告の請求は、理由がないというべきである。

(ウ)本件契約第14条第1項及び同条第4項が法に違反するか
 ⅰ 本件契約第14条第1項及び同条第4項の法第10条前段該当性
  本件契約第14条第1項及び同条第4項の内容は、原契約賃借人の法的地位に関し、任意規定である民法第463条第1項及び第2項が定める内容と比べ、その権利を制限し又は義務を加重するものであるといえる。また、原契約賃借人の連帯保証人についても、原契約賃借人の原契約賃貸に対する抗弁の主張を援用することを妨げる効力を有するものであるから、本件契約第14条第1項及び同条第4項は、消費者たる連帯保証人との関係においても、民法上の任意規定と比べてその権利を制限するものであるといえ、法第10条前段の規定に該当する。
 ⅱ 本件契約第14条第1項及び同条第4項の法第10条後段該当性
 ㈠ 本件契約第14条第1項及び同条第4項より生じる原契約賃借人の不利益について
 原契約賃借人が賃料等の弁済をした後、被告が原契約賃貸人からも請求に応じ保証債務を支払った場合において、原契約賃借人が本件契約によって甘受すべき賃料等の二重払いのリスクは、基本的には、賃料等1箇月分及び変動費、更新料程度であるということができる。
  原契約賃借人が、原契約賃貸人による修繕義務(民法第606条第1項)の不履行に基づく損害賠償請求権や必要費償還請求権(民法第608条第1項)など、原契約賃貸人に対する反対債権を有する場合において、原契約賃借人は、将来発生する賃料等債務を受働債権とする相殺をすることによって、自らの債権回収を図ることができるから、結局、この場合も、原契約賃借人の不利益はあながち大きいものとはいえない。
 原契約賃借人の不利益が問題となる場合について検討しても、本件契約第14条第1項及び同条第4項によって、原契約賃借人に対して生じる不利益が大きいものということはできない。
 ㈡ 本件契約第14条第1項及び同条第4項による原契約賃借人の連帯保証人の不利益について
  本件契約第14条第1項及び同条第4項は、上記㈠の検討を前提とすると、これらの条項により、原契約賃借人に生じる不利益は大きいものとはいえない。また、原契約賃借人が通常想定し得る適切な対応を採りさえすれば、これによって原契約賃借人の連帯保証人に生じる不利益も大きなものとはならないと考えられる。
原契約賃借人の連帯保証人は、原契約賃借人と異なり、賃借物件である建物に居住していないことが通常であり、賃借物件の一部が滅失していたり、賃借物件に修繕が必要な瑕疵があったりすることを容易に知り得ないこともあり得る。しかし、このような立場にあることから生じる原契約賃借人の連帯保証人の不利益は、連帯保証人であることにより受忍すべきものと考えられる上、原契約賃借人から賃借物件の状況の通知を受けることなどにより軽減することが可能である。
したがって、原契約賃借人の連帯保証人についても、本件契約第14条第1項及び同条第4項の規定によって生じる不利益は大きいものとはいえない。
 ㈢ 本件契約第14条第1項及び同条第4項の必要性又は許容性
これに対し、被告において、本件契約第14条第1項及び同条第4項を設けることについては、その必要性及び許容性が認められる。
 ⅲ 小括
 以上によれば、本件契約第14条第1項及び同条第4項は、原契約賃借人に関する部分及び原契約賃借人の連帯保証人に関する部分のいずれについても、信義則に照らして消費者の利益を一方的に害するものということはできない。
 よって、本件契約第14条第1項のような、一審被告が原契約賃借人に対して事前に通知することなく原契約賃貸人に対する保証債務を履行することができるとする条項を含む消費者契約、並びに、本件契約第14条第4項のような、一審被告が原契約賃借人に対し求償権を行使するのに対し、原契約賃借人及び連帯保証人が原契約賃貸人に対する抗弁をもって一審被告への弁済を拒否できないことをあらかじめ承諾する条項を含む消費者契約の申込み又は承諾の意思表示の差止め等を求める一審原告の請求は、いずれも、理由がない。

(エ)本件契約第18条第2項第2号が法に違反するか
 ⅰ 本件契約第18条第2項第2号の法第8条第1項第3号該当性
 ㈠ 本件契約第18条第2項第2号は、本件4要件(①原契約賃借人が賃料等の支払を2箇月以上怠り、②一審被告が合理的な手段を尽くしても原契約賃借人本人と連絡が取れない状況の下、③電気・ガス・水道の利用状況や郵便物の状況等から賃借物件を相当期間利用していないものと認められ、かつ、④賃借物件を再び占有使用しない原契約賃借人の意思が客観的に看取できる事情が存するとき)を満たす場合には、原契約賃借人が明示的に異講を述べない限り、賃借物件の明渡しがあったものとみなすことができる権限を一審被告に付与する条項である。そして、本件契約第18条第2項第2号の規定により賃借物件の明渡しがあったものとみなされた場合にも、同条第3項、第19条第1項の規定が適用されるところ、本件契約第18条第3項の規定は、原契約賃借人は賃借物件内に残置した動産類について、原契約賃貸人又は一審被告においてこれを任意に搬出・保管することに異議を述べない旨規定し、第19条第1項の規定は、一審被告が搬出して保管している動産類のうち、原契約賃借人が当該搬出の日から1箇月以内に引き取らないものについて、原契約賃借人はその所有権を放棄し、一審被告が随意に処分することに異議を述べない旨規定する。
 これらの条項は、いずれも一審被告に各条項所定の一定の権限を付与するものであり、本件契約第18条第2項の規定にいう「乙が明示的に異議を述べない限り」との規定は、原契約賃借人が明示的に異議を述べることにより一審被告がその付与された権限、すなわち、賃借物件の明渡しがあったものとみなすことができる権限の行使を阻止することができる旨を定めたものにすぎず、また、本件契約第18条第3項及び第19条第1項の規定にいう「異議を述べない」との規定は、一審被告がこれらの条項により付与された権限を行使することについて原契約賃借人に異議がないことを確認する趣旨にすぎないと解するのが、その文言に素直で自然な解釈というべきであり、それを超えて、一審被告が本件4要件を満たさないにもかかわらず、又は原契約賃借人が明示的に異議を述べているにもかかわらず、賃借物件の明渡しがあったものとみなして一審被告が本件契約第18条第3項、第19条第1項の規定により付与された権限を行使したり、あるいは、本件契約第18条第3項又は第19条第1項の規定により付与された権限を行使するに際し、故意又は過失により原契約賃借人に損害を与えたりしたような場合にまで、これにより一審被告が原契約賃借人に対して負うこととなる不法行為に基づく損害賠償責任の全部を免除する趣旨を読み取ることはできない。
 ㈡ 以上によれば、本件契約第18条第2項第2号が法第8条第1項第3号に該当するものということはできない。
 ⅱ 本件契約第18条第2項第2号の解釈等について
 ㈠ 本件契約第18条第2項第2号は、本件4要件を満たすときは、原契約賃借人が明示的に異謙を述べない限り、一審被告において賃借物件の明渡しがあったものとみなすことができる旨規定し、本件契約第18条第3項は、原契約賃借人は、同条第2項により賃借物件の明渡しがあったものとみなされた場合であっても、賃借物件内に残置した動産類については、原契約賃貸人及び一審被告において、これを任意に搬出・保管することに異議を述べない旨規定する。
 ㈡ そこで、本件契約第18条第2項第2号が、原契約賃借人がなお賃借物件を占有している場合にも適用されるものであるかにつき検討するに、本件4要件は、一般に、原契約賃借人が賃借物件の所持を失い、あるいは、賃借物件についての占有の意思を失っている蓋然性が高い場合の徴表とされる、原契約賃借人が賃料等の支払を2箇月以上怠っていること(①)、(原契約賃貸人からその権限を付与された)一審被告が合理的な手段を尽くしても原契約賃借人本人と連絡が取れない状況にあること(②)、電気・ガス・水道の利用状況や郵便物の状況等から原契約賃借人が賃借物件を相当期間利用していないものと認められること(③)、を原契約賃借人が賃借物件についての占有権の喪失を認めるために必要な要件として規定するととともに、上記3要件を満たす場合においてもなお、原契約賃借人の賃借物件についての占有権の消滅を認めるには合理的な疑いが残る場合が排除できないことに鑑み、原契約賃借人の賃借物件についての占有を放棄する意思が客観的に看取できる事情が存すること(④)を要件として加えることにより、原契約賃借人が賃借物件について占有する意思を最終的かつ確定的に放棄した(ことにより賃借物件についての占有権が消滅した)ものと認められるための要件をその充足の有無を容易かつ的確に判断することができるような文言で可能な限り網羅的に規定しようとしたものであると解される。
 ㈢ 本件契約第18条第2項第2号は、本件4要件を満たすことにより、原契約賃借人が賃借物件の使用を終了してその賃借物件に対する占有権が消滅しているものと認められる場合に、一審被告に対し、賃借物件の明渡しがあったものとみなし、原契約が継続している場合にはこれを終了させる権限を付与する趣旨の規定であると解される。
 ㈣ 上記によれば、本件契約第18条第2項第2号は、原契約賃借人から明渡しがされたとは認められないものの、本件4要件を満たすことにより、原契約賃借人が賃借物件の使用を終了してその賃借物件に対する占有権が消滅しているものと認められる場合において、原契約賃借人が明示的に異議を述べない限り、一審被告に対し、賃借物件の明渡しがあったものとみなし、原契約が継続している場合にはこれを終了させる権限を付与する趣旨の規定であると解するのが相当である。
 ⅲ 本件契約第18条第2項第2号の法第10条該当性
 ㈠ 本件契約第18条第2項第2号は、原契約賃借人からの明渡しがされたとは認められないものの、本件4要件を満たすことにより、原契約賃借人が既に賃借物件の使用を終了してその賃借物件に対する占有権が消滅しているものと認められる場合において、原契約賃借人が明示的に異議を述べない限り、一審被告に対し賃借物件の明渡しがあったものとみなし、原契約が継続している場合にはこれを終了させる権限を付与する条項であり、同条項により賃借物件の明渡しがあったものとみなされた場合、原契約賃借人は、賃借物件内に残置した動産類について、原契約賃貸人又は一審被告によってこれを任意に搬出・保管されることを甘受すべき地位に立ち(同条第3項)、その後、当該動産類を1箇月以内に引き取らない場合には、その所有権を失い、以後一審被告によって随意にこれを処分されることも甘受すべき地位に立つこととなる(第19条第1項)。これらの条項がなければ、原契約賃借人は、賃借物件に対する占有を失っているとはいえ、民事訴訟手続及び民事執行手続を経ずに賃借物件内の動産類を搬出・保管され、あるいはこれを処分されることはないこと等、これらの条項は、任意規定の適用による場合に比し、消費者である原契約賃借人の権利を制限するものであるということができる。
 ㈡ 本件4要件を満たすことにより、原契約賃借人が賃借物件の使用を終了してその賃借物件に対する占有権が消滅しているものと認められる場合に、一審被告により賃借物件の明渡しがあったものとみなされたとしても、そのことにより原契約賃借人が受ける不利益は、その後に原契約賃貸人及び一審被告により賃借物件内の動産類を搬出・保管ないし処分され得るという点も含め、必ずしも大きいものとはいえない。
 他方で、原契約賃貸人及び一審被告は、原契約賃借人が賃借物件の使用を終了して、その賃借物件に対する占有権が消滅しているものと認められるにもかかわらず、原契約賃借人が賃借物件内に動産類を残置等し、 しかも、原契約賃貸人や一審被告に対してその連絡をしないため、一審被告が合理的手段を尽くしても原契約賃借人と連絡が取れないことから、法的な意味における賃借物件の明渡しが実現されない場合に、本件契約第18条第2項第2号、同条第3項及び第19条第1項の規定により、速やかに原契約を終了させて、民事訴訟手続及び民事執行手続を経ることなく賃借物件の明渡しを実現することができるとともに、一審被告は未払賃料等及び賃料等相当損害金の支払義務を免れることができることとなり、上記のように法的な意味における賃借物件の明渡しが実現されない事態が現実には少なくないと認められることにも鑑みると、本件契約第18条第2項第2号及びこれを前提とする本件契約第18条第3項、第19条第1項の規定によって原契約賃貸人及び一審被告が受ける利益は大きいということができる。
 以上によれば、本件契約第18条第2項第2号のみならず、これを前提とする同条第3項本件契約第19条第1項の各条項は、相応の合理性を有するものということができる反面、これによる原契約賃借人の不利益は限定的なものにとどまるものということができることからすれば、本件契約第18条第2項第2号が信義則に反して消費者である原契約賃借人の利益を一方的に害するものということはできない。
㈢ 本件契約第18条第3項、第19条第1項及び同条第2項の内容を踏まえたとしても、本契約第18条第2項第2号の規定が法10条に該当するものということはできない。
 ⅳ 小括
  したがって、本件契約第18条第2項第2号のような、原契約賃借人が賃料等の支払を2箇月以上怠り、一審被告において合理的な手段を尽くしても原契約賃借人本人と連絡が取れない状況の下、電気・ガス・水道の利用状況や郵便物の状況等から賃借物件を相当期間利用していないものと認められ、かつ、賃借物件を再び占有使用しない原契約賃借人の意思が客観的に看取できる事情が存するときに、原契約賃借人が明示的に異議を述べない限り、賃借物件の明渡しがあったものとみなす権限を一審被告に付与する条項を含む消費者契約の申込み又は承諾の意思表示の差止め等を求める一審原告の請求は、いずれも理由がない。

(オ)本件契約第18条第2項第2号、同条第3項、第19条第1項及び同条第2項が一体として法に違反するか
 上記(エ)で説示したところからすれば、本件契約第18条第2項第2号、同条第3項、第19条第1項及び同条第2項の規定を一体としてみたとしても、これらの条項が法第8条第1項第3号に該当し、又は、法第10条に該当するということはできない。したがって、一審原告の当審における附帯控訴に基づく予備的請求も理由がない。

(カ)結論
 以上によれば、一審原告の請求はいずれも理由がないから棄却すべきところ、これを一部認容した原判決は失当であって、一審被告の控訴は理由があるから、原判決中、一審被告敗訴部分を取り消して、その部分につき一審原告の請求を棄却し、一審原告の控訴は理由がないから、これを棄却することとする。また、一審原告の当審における附帯控訴に基づく予備的請求も理由がないから、これを棄却することとする。

参考資料

判決日・事案終了日

令和3年3月5日

ステータス

終了

適格消費者団体

消費者支援機構関西

お問い合わせ先

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その他

-

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この事案の経過