事業分類
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金融業,保険業
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事業者等名
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フォーシーズ株式会社
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事案の内容
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本件は、適格消費者団体である特定非営利活動法人消費者支援機構関西(以下「原告」という。)が、家賃債務保証業を営むフォーシーズ株式会社(以下「被告」という。)に対し、被告が消費者を相手方として締結する次の契約(以下「本件契約」という。)に含まれる次の契約条項(以下「本件契約条項」という。)は、消費者契約法(以下「法」という。)第8条第1項第3号(※)及び第10条(※)に規定する消費者契約の条項に該当してその効力が否定されるものであるとして、法第12条第3項の規定に基づき、本件契約条項を含む消費者契約の申込み又は承諾の意思表示の差止め、本件契約条項が記載された契約書ひな形が印刷された契約書用紙の廃棄及び被告の従業員らへの指示を徹底する旨の書面の配布を求めた事案である(平成28年10月24日付けで大阪地方裁判所に訴えを提起)。
<本件契約> 被告が、住宅等の賃貸借契約(以下「原契約」という。)の当事者たる賃貸人 (以下「原契約賃貸人」という。)や賃借人(以下「原契約賃借人」という。)等との間で締結する、原契約に係る賃料等債務につき原契約賃借人から保証を受託することを含む「住み替えかんたんシステム保証契約」と称する契約。なお、本件契約に係る実際の契約条項については、別紙契約条項目録を参照のこと。 <本件契約条項> ① 本件契約第13条第1項のような、家賃債務保証受託者である被告に原契約を無催告解除する権限を付与する趣旨の条項(以下「本件被告解除権付与条項」という。) ② 本件契約第13条第1項のような、被告が原契約の無催告解除権を行使することについて原契約賃借人に異議がない旨の確認をさせる趣旨の条項(以下「本件異議不存在確認条項」という。) ③ 本件契約第14条第1項のような、被告が原契約賃借人に対して事前に通知することなく原契約賃貸人に対する保証債務を履行することができるとする条項 ④ 本件契約第14条第4項のような、被告が原契約賃借人に対し事後求償権を行使するのに対し、原契約賃借人及びその連帯保証人が原契約賃貸人に対する抗弁をもって被告への弁済を拒否できないことをあらかじめ承諾する条項 ⑤ 本件契約第18条第2項第2号のような、原契約賃借人が賃料等の支払いを2か月以上怠り、被告において合理的な手段を尽くしても原契約賃借人本人と連絡がとれない状況の下、電気・ガス・水道の利用状況や郵便物の状況等から原契約の目的たる賃借物件を相当期間利用していないものと認められ、かつ、賃借物件を再び占有使用しない原契約賃借人の意思が客観的に看取できる事情が存するときに、原契約賃借人が明示的に異議を述べない限り、賃借物件の明渡しがあったものとみなす権限を被告に付与する条項
(※)消費者契約法 (事業者の損害賠償の責任を免除する条項等の無効) 第八条 次に掲げる消費者契約の条項は、無効とする。 一・二 〔略〕 三 消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する民法の規定による責任の全部を免除する条項 四・五 〔略〕 2 〔略〕 (消費者の利益を一方的に害する条項の無効) 第十条 民法、商法(明治三十二年法律第四十八号)その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。 (注)上記の訴えが提起された日現在の規定
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差止請求根拠条文
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消費者契約法第8条第1項第3号、消費者契約法第10条
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結果
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大阪地方裁判所は、令和元年6月21日、次のとおり判断して、原告の請求を一部認容した(被告に対し、本件契約条項⑤を含む契約の申込み又は承諾の意思表示の差止め、本件契約条項⑤が記載された契約書ひな形が印刷された契約書用紙の廃棄等を命じた。)。なお、原告及び被告は、当該判決を不服として大阪高等裁判所に控訴した。
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当該裁判の主たる争点
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ア 主たる争点 ⅰ)本件被告解除権付与条項(本件契約条項①)の法第10条の該当性 ⅱ)本件異議不存在確認条項(本件契約条項②)の法第8条第1項第3号又は第10条の該当性 ⅲ)本件契約条項③及び④の法第10条の該当性 ⅳ)本件契約条項⑤の法第8条第1項第3号及び法第10条の該当性 イ 主たる争点についての裁判所の判断の概要 【争点ⅰ】 ㈠ 本件被告解除権付与条項(本件契約条項①)の解釈 本件被告解除権付与条項は、原契約の特約として位置付けられるものである。本件被告解除権付与条項に基づく被告の解除権が、原契約賃貸人の解除権と同様、賃貸借契約を終了させ、賃借物件を明け渡させるための手段として行使されるものであること、不動産賃貸借契約における賃貸人による解除特約については、継続的契約の当事者間の信頼関係を基礎とする限定解釈を及ぼすことが一般的であることに鑑みると、本件被告解除権付与条項についても、家屋賃貸借契約が当事者間の信頼関係を基礎とする継続的契約であることを基礎とする信頼関係破壊の法理を前提としたものであると理解すべきである。 したがって、本件被告解除権付与条項は、原契約賃借人が賃料等及び変動費の支払を賃料3か月分以上怠り、これがため原契約を解除するに当たり催告をしなくてもあながち不合理とは認められないような事情が存する場合に限り、被告が無催告で解除権を行使することができる旨を定めた規定であると解するのが相当である。 ㈡ 本件被告解除権付与条項(本件契約条項①)の法第10条前段の該当性 本件被告解除権付与条項は、原契約について、第三者たる被告に、その契約関係を一方的に終了させる権限を与えるものであり、民法第541条又は民法上の一般的な法理と比較して、原契約賃借人の権利を制限するものといえ、また、原契約の債務の履行を怠ることにより、被告から解除権を行使される地位に立たされるという点で、原契約賃借人の義務を加重するものといえるから、法第10条前段の該当性を肯定することができる。 ㈢ 本件被告解除権付与条項(本件契約条項①)の法第10条後段の該当性 原契約賃借人は、本件被告解除権付与条項により、原契約当事者でない被告の判断によって、原契約が一方的に終了させられるという不利益を受けることとなる。しかし、被告が無催告解除権を行使し得るのは、原契約賃借人が賃料等及び変動費について賃料3か月分以上を滞納し、かつ、これがため契約を解除するに当たり催告をしなくてもあながち不合理とは認められない事情が存する場合に限られる。そして、仮に原契約賃貸人との間で、本件被告解除権付与条項と同内容の無催告解除特約が締結されているとすれば、原契約賃借人が賃料等及び変動費について併せて賃料3か月分以上を滞納し、これがため契約を解除するに当たり催告をしなくてもあながち不合理とは認められない事情が存する場合には、原契約賃借人は、原契約が一方的に終了させられるという不利益を受忍せざるを得ない地位にある。 そうすると、本件被告解除権付与条項の行使条件は、一般的な無催告解除特約に比して原契約賃借人にとって格別不利益なものであるとはいえず、無催告解除権が原契約当事者でない被告に付与されたことによる原契約賃借人の不利益は限定的なものにとどまるものということができる。原告の主張する弁護士法第72条が想定する弊害の発生のおそれ、利益相反性等について検討しても、本件被告解除権付与条項が、信義則に照らして消費者である原契約賃借人を一方的に害するものということはできない。 よって、本件被告解除権付与条項が、法第10条後段に該当するとの原告の主張は採用できず、本件被告解除権付与条項に係る意思表示の差止めの請求には理由がない。
【争点ⅱ】 ㈠ 本件異議不存在確認条項(本件契約条項②)の解釈 本件異議不存在確認条項の前提たる本件被告解除権付与条項についての【争点ⅰ㈠】の解釈を前提とすれば、本件異議不存在確認条項には、無効と解される解除権行使がされた場合において、原契約賃借人が被告に対して取得する損害賠償請求権等の法的権利を放棄させたり、そもそも無効と解されるべき被告の解除権行使について、これを争う利益を放棄させたりするとの趣旨を読み取ることはできない。そうすると、本件異議不存在確認条項は、本件被告解除権付与条項に基づく被告の有効な無催告解除権の行使について、原契約賃借人が「異議がない」ことを確認する旨の条項にすぎず、無効な解除権の行使の効力等を争う権利を放棄させる条項と解釈する余地はなく、また、被告に対する損害賠償請求権を免除させる条項と解釈する余地もないというべきである。 ㈡ 本件異議不存在確認条項(本件契約条項②)の法第8条第1項第3号及び第10条前段の各該当性 本件異議不存在確認条項を㈠の趣旨に解することを前提とすると、本件異議不存在確認条項は、原契約賃借人が有すべき損害賠償請求権を放棄させたり、原契約賃借人においてその効力を争う権利を放棄させたりする条項とはいえないから、法第8条第1項第3号に該当するものとはいえず、また、法第10条前段に該当するものともいえない。 したがって、法第10条後段該当性について検討するまでもなく、本件異議不存在確認条項に係る原告の主張は採用できず、本件異議不存在確認条項に係る意思表示の差止請求には理由がない。
【争点ⅲ】 ㈠ 本件契約条項③(本件契約第14条第1項)及び④(本件契約第14条第4項)の解釈 本件契約条項③には、被告の原契約賃借人に対する求償金請求について、原契約賃借人が被告に対し「債権者に対抗することができる事由」(民法第463条第1項・第443条第1項)を主張することを妨げ、被告が事前通知なくして弁済等をした場合であっても、同法第463条第2項・第443条第2項の規定に基づき、有効な弁済等であったものとみなすことを可能とする効果がある。 本件契約条項④には、被告が原契約賃借人に対して自らの保証債務の履行が有効であることを主張できる場合において、原契約賃借人の被告に対する抗弁の主張を妨げる効果がある。
㈡ 本件契約条項③及び④の法第10条前段の該当性 以上の内容は、原契約賃借人の法的地位に関し、任意規定である民法第463条第1項及び第2項・第443条第1項及び第2項が定める内容と比べ、その権利を制限し又は義務を加重するものであるといえる。よって、本件契約条項③及び④は、法第10条前段に該当するものといえる。 また、原契約賃借人の連帯保証人についても、原契約賃借人の原契約賃貸人に対する抗弁の主張を援用することを妨げる効力を有するものであるから、本件契約条項③及び④は、消費者たる連帯保証人との関係においても、民法上の任意規定と比べてその権利を制限するものであるといえ、法第10条前段に該当する。 ㈢ 本件契約条項③及び④の法第10条後段の該当性 原契約賃借人の不利益が問題となる(イ)原契約賃借人が賃料等の弁済をした後、被告が原契約賃貸人からの請求に応じ保証債務を支払った場合、(ロ)原契約賃借人が、原契約賃貸人による修繕義務(民法第606条第1項)の不履行に基づく損害賠償請求権や必要費償還請求権(民法第608条第1項)など、原契約賃貸人に対する反対債権を有している場合その他の原契約賃借人の不利益が問題となる場合につき検討しても、(イ)については、原契約賃借人が甘受すべき賃料等の二重払いのリスクは、基本的には、賃料等1か月分及び変動費、更新料程度であるということができること等から、(ロ)については、原契約賃借人は、既発生の賃料等債務に係る相殺が民法第463条第2項・第443条第2項又は本件契約第14条第3項により無効とされた場合であっても、同じ債権をもって、将来発生する賃料等債務とその対当額において相殺することにより、原契約賃貸人に対する債務を免れるとともに、原契約賃貸人に対する自働債権を回収することができること等から、本件契約条項③及び④によって、原契約賃借人に対して生じる不利益が大きいものということはできない。 また、原契約賃借人の連帯保証人についても、本件契約条項③及び④によって生じる不利益は大きいものとはいえない。 これに対し、被告においては、本件契約条項③及び④を設けることについて、次のような点から、その必要性及び許容性が認められる。 (1) 被告の保証債務の履行自体は、被告の通常業務の過程で反復的・集団的に起こるものであり、この保証債務履行のたびに原契約賃借人に対する事前通知を行うことによるコストは、軽視できるものとはいえない。 (2) 被告が、原契約賃貸人から保証債務履行請求を受けた場合において、原契約賃借人が原契約賃貸人に対して法的に対抗し得る事由を有していることが多くはなく、むしろ、例外的である。 (3) 原契約賃借人が賃料等を支払っていない場合、原契約賃貸人が被告に対して賃料等相当額の保証債務履行請求をすることは通常、予測可能であり、原契約賃借人が、原契約賃貸人に対して法的に対抗すべき事由を有している場合、これを原契約賃貸人に対してだけでなく、賃借物件を管理する宅地建物取引業者や被告に対して通知する機会がないとはいえない。 (4) 金融機関の貸付けに際して、信用保証協会が個人又は事業者の債務を保証する場合において、その保証委託契約には、信用保証協会による保証債務の履行について、主債務者に対する事前の通知義務を免除する特約が存し、その他の金融機関についても、同種の特約が存することが少なくない。 以上によれば、本件契約条項③及び④は、原契約賃借人に関する部分及び原契約賃借人の連帯保証人に関する部分のいずれについても、信義則に照らして消費者の利益を一方的に害するものということはできない。 したがって、本件契約条項③及び④が法第10条後段に該当するとの原告の主張は採用できず、本件契約条項③及び④を含む契約締結の意思表示の差止請求についてはいずれも理由がない。
【争点ⅳ】 ㈠ 本件契約条項⑤(本件契約第18条第2項第2号)の解釈 本件契約条項⑤は、本件契約第18条第1項とは異なり原契約が終了したことが要件となっていないこと及び本件契約の他の条項に照らすと、本件契約条項⑤に定める要件が存するときに、原契約が解除等を理由として終了したか、又は原契約終了の前提となる解除の意思表示が有効であるか否かにかかわらず、原契約を終了させ、(α)原契約賃貸人及び被告が賃借物件内に存する動産類を搬出保管することにつき、原契約賃借人において異議を述べない旨、(β)(α)の搬出の日から1か月以内に引き取らないものについて、原契約賃借人に所有権を放棄させ、これを被告が随意処分することにつき、原契約賃借人において異議を述べない旨、(γ)(α)の搬出に係る動産類の保管料等の費用を原契約賃借人が支払うこととする旨を定めた条項であると解するのが相当である。その「異議を述べない」という文言の趣旨に、原契約賃借人が、原契約賃貸人及び被告による賃借物件内の動産類の搬出・保管及び随意処分の各措置を受け入れ、拒絶しないことが含まれることは明らかである。 ㈡ 本件契約条項⑤の法第8条第1項第3号の該当性 本件契約条項⑤が、原契約自体の終了原因の有無や解除の意思表示の有効性を問わずに同契約を終了させる趣旨のものであることに照らすと、本件契約条項⑤の適用により、いまだ原契約が終了しておらず、原契約賃借人の占有が失われていない場合であっても、被告等は、賃借物件内の動産類の搬出・保管を行い得ることとなる。このような行為は、原契約が終了しておらず、いまだ原契約賃貸人に賃借物件の返還請求権が発生していない状況で、被告等が自力で賃借物件に対する原契約賃借人の占有を排除し、原契約賃貸人にその占有を取得させることにほかならず、自力救済行為であって、本件契約の定めいかんにかかわらず、法的手続によることのできない必要性緊急性の存するごく例外的な場合を除いて、不法行為に該当する。また、本件契約第19条第1項は、被告が動産類を搬出・保管し、原契約賃借人が、搬出から1か月以内に引き取らないものについて、被告が随意処分することに異議を述べない旨定めるものであり、これは、原契約が終了しておらず、原契約賃借人が賃借物件に対する占有を失っていない場合にも適用される。 このような本件契約上の関連条項の文言に照らすと、本件契約条項⑤は、本件契約第18条第3項及び第19条第1項と相まって、上記の各措置によって原契約賃借人が法律上保護された利益を侵害された場合であっても、これを理由とする損害賠償請求をしない旨、すなわち、被告等による上記の各措置が本件契約における債務の履行に際してされた原契約賃借人に対する不法行為に該当する場合であっても、原契約賃借人にこれを理由とする損害賠償請求権を放棄させる趣旨も含むものと解するのが相当である。 したがって、本件契約条項⑤は、本件契約第18条第3項及び第19条第1項と相まって法第8条第1項第3号に該当する条項であるということができる。 そして、被告は、現在、本件契約の契約書用紙を使用していることから、不特定多数の消費者との間で、本件契約条項⑤を含む消費者契約の申込み又は承諾の意思表示を現に行い、又は行うおそれがあるものと認められる。 そうすると、本件契約条項⑤に係る他の争点を検討するまでもなく、本件契約条項⑤を含む消費者契約の申込み等の意思表示の差止めを求める原告の請求には理由がある。
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参考資料
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判決日・事案終了日
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令和元年6月21日
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ステータス
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終了
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適格消費者団体
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消費者支援機構関西
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お問い合わせ先
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06-6945-0729
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その他
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消費者庁公表資料
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