ひょうご消費者ネットとハートランド管理センター株式会社との間の訴訟に関する控訴審判決の確定について

差止請求詳細

事業分類

不動産業,物品賃貸業

事業者等名

ハートランド管理センター株式会社

事案の内容

 本件は、適格消費者団体である特定非営利活動法人ひょうご消費者ネット(以下「ひょうご消費者ネット」という。)が、大型分譲地内の共益施設の維持管理等を業とするハートランド管理センター株式会社(以下「ハートランド管理センター」という。)が、消費者との間で分譲地管理契約(以下「本件管理契約」という。)を締結するに際し、消費者契約法(以下「法」という。)第10条 (※1)に規定する消費者契約の条項に該当する以下の条項(以下「本件契約条項」という。)を含む契約の申込み又は承諾の意思表示を現に行い、又は行うおそれがあると主張して、ハートランド管理センターに対し、法第12条第3項の規定に基づき、本件契約条項を含む消費者契約の申込み又は承諾の意思表示の停止及びこれらの行為の停止又は予防に必要な措置として上記意思表示を行うための事務を行わないことをハートランド管理センターの従業員らに指示することを求めた事案である。
 原判決(神戸地方裁判所が令和3年9月14日に言渡し)が、ひょうご消費者ネットの請求を棄却したところ、ひょうご消費者ネットが控訴した(以下ひょうご消費者ネットを「控訴人」、ハートランド管理センターを「被控訴人」、という。)。

 <本件契約条項>
 9条(本件契約条項)
 本規約に基づく管理期間は、毎年1月1日から12月31日迄とする。但し、所有者が分譲地に士地を所有する間、更新するものとする。

(※)消費者契約法
(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
第十条 消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の 意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。
(注)上記の訴訟が提起された日現在の規定

差止請求根拠条文

消費者契約法第10条

結果

 大阪高等裁判所は、令和4年9月20日、次のとおり判断して、原判決を取り消した上で控訴人の請求を一部認容した。なお、被控訴人は、同月28日付けで上告及び上告受理申立てを行った。
 令和5年12月21日に、それぞれ上告棄却及び申立て不受理の決定がされ、差止請求を一部認容した控訴審判決が確定した

当該裁判の主たる争点

ア 主たる争点
  本件契約条項の法第10条該当性

イ 主たる争点についての裁判所の判断の概要
㈠ 本件管理契約の法的性質
 本件管理契約は、被控訴人において、①被控訴人分譲地に存在する道路・温泉・下水道施設及び管理事務所等の共益施設を維持管理する契約、②分譲地所有者が管理業務に対する費用を支払うことによって、共益施設を利用できる契約、③被控訴人が分譲地所有者からの委託に基づき、個々の分譲地について個別の管理を行う契約の複合的な要素を含む契約と解される。上記の各契約の性質について検討すると、③については、個々の分譲地所有者がすべき個別の管理を被控訴人に委託するものであるから、準委任契約の性質を有するものと認められる。他方、①及び②は、共益施設の利用契約の本質を有する契約と認めるのが相当である。
 以上のとおり、本件管理契約は、各分譲地所有者が所有する分譲地を対象とした準委任契約と共益施設を対象とした利用契約の複合的な要素を含む契約と解されるところ、これら対象となる施設等は明確に区分できるから、契約は一つであっても不可分一体といえるほどの強い接合関係があるとはいえない。
 そうすると、前者については、委任契約の規定が適用されるものの、後者については、委任契約の規定は適用されないと解するのが相当である。


㈡ 法第10条前段該当性
 本件契約条項は、①消費者の不作為をもって本件管理契約が更新される点、②準委任契約部分につき、民法第651条の自由解除権の放棄を内容としている点について、それぞれ、法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する条項に当たるから、法第10条前段に該当する。


㈢ 法第10条後段該当性
ア 法第10条に該当するかどうかの判断に際しては、当該条項のみを抽象的に審査して判断することは相当ではなく、当該事業者の事業の状況等を総合考慮して判断するのが相当である
イ 消費者の不作為をもって本件管理契約が更新される点について、以下のとおりである。
 継続的契約においては、当該契約関係を維持しなければならないような高度の必要性や当該契約関係を終了させることが正義に反するような事情がある場合を除き、当該契約からの離脱も一定の範囲内で認められるべきところ、本件では、これらの点を認めることはできない。そして、本件管理契約が有償であること、分譲地所有者であっても、分譲地に建物を所有していない者も多く、これら所有者の多くが本件管理契約を必要としているとまでは考え難いこと、被控訴人は一部の分譲地について管理から撤退しているところ、一方当事者である被控訴人は自身の判断で契約から離脱できる自由を享受する一方、他方当事者である分譲地所有者には契約から離脱する自由を認めないことは明らかに不均衡であり、正義に反すること、被控訴人分譲地内であっても、本件管理契約を締結していない所有者の方が多いところ、偶々本件管理契約を締結した所有者のみが被控訴人分譲地を所有している限り、永遠にそれに拘束されなければならない理由は見出し難いこと等の本件で認められる諸事情を総合すれば、本件契約条項のうち、土地を所有している限り更新される旨の規定は、民法第1条第2項(信義則)に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものと認めるのが相当である。
ウ 準委任契約部分について民法第651条の自由解除権の放棄を内容としている点について、以下のとおりである。
 本件契約条項のうち、土地を所有している限り更新される旨の規定が法第10条により無効であることは上記のとおりであるから、本件管理契約を締結あるいは更新した者は、1年間は本件管理契約から離脱することはできないものの、それ以降は、1年を単位として自由に契約関係から離脱することができることとなり、自由解除権の放棄条項による契約関係からの離脱の制限の影響は、大きいとはいえない。
 そして、被控訴人分譲地における年間の管理費の1戸当たり額は、準委任契約部分に限ってみれば、その額が高額とはいえない。
 また、消費者が本件管理契約を継続するかどうかを判断する大きな要素として、当該分譲地の利用方法や生活スタイルがあると考えられるところ、これらが短期間で変動するとは考え難く、契約関係から機動的に離脱できるようにしなければ正義に反するといえるほどの事情を見出すことはできない。
 以上に加えて、被控訴人においては、その業務の性質や内容に照らし、予算管理や人員配置の観点から、あらかじめ契約期間が明らかになっていた方がより計画的かつ効率的な管理が可能と考えられ、また、そのことが同時に契約者である分譲地所有者の利益にも資すると考えられること等も総合すれば、本件において、1年間の契約期間中に自由解除権を行使することができないとしても、それをもって民法第1条第2項に規定する基本原則に比して、消費者の利益を一方的に害したとまでは言い難い。


㈣ 小括
 以上によれば、本件契約条項中、土地を所有している限り更新される旨 の規定は、消費者の不作為をもって本件管理契約が更新される限りにおいて、法第10条により無効である。

参考資料

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判決日・事案終了日

令和5年12月21日

ステータス

終了

適格消費者団体

ひょうご消費者ネット

お問い合わせ先

078-361-7201

その他

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消費者庁公表資料

この事案の経過