ひょうご消費者ネットとハートランド管理センター株式会社との間の訴訟に関する判決について

差止請求詳細

事業分類

不動産業,物品賃貸業

事業者等名

ハートランド管理センター株式会社

事案の内容

 本件は、適格消費者団体である特定非営利活動法人ひょうご消費者ネット(以下「原告」という。)が、大型分譲地内の共益施設の維持管理等を業とするハートランド管理センター株式会社(以下「被告」という。)が、消費者との間で分譲地管理契約(以下「本件管理契約」という。)を締結するに際し、消費者契約法(以下「法」という。)第10条 (※)に規定する消費者契約の条項に該当する以下の条項(以下「本件契約条項」という。)を含む契約の申込み又は承諾の意思表示を現に行い、又は行うおそれがあると主張して、被告に対し、法第12条第3項の規定に基づき、本件契約条項を含む消費者契約の申込み又は承諾の意思表示の停止、及び、これらの行為の停止又は予防に必要な措置として上記意思表示を行うための事務を行わないことを被告の従業員らに指示することを求めた事案である(令和2年6月3日付けで神戸地方裁判所に対して訴訟を提起。訴訟係属中に、被告の名称はKRG管理センター株式会社から上記に変更された。)。

 <本件契約条項>
 9条(本件更新条項)
 本規約に基づく管理期間は、毎年1月1日から12月31日迄とする。但し、所有者が分譲地に士地を所有する間、更新するものとする。

(※)消費者契約法
(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
第十条 消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の 意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。
(注)上記の訴訟が提起された日現在の規定

差止請求根拠条文

消費者契約法第10条

結果

 神戸地方裁判所は、令和3年9月14日、次のとおり判断して、原告の請求を棄却した。なお、原告は、当該判決を不服として大阪高等裁判所に控訴した。

当該裁判の主たる争点

ア 主たる争点
  本件契約条項の法第10条該当性

イ 主たる争点についての裁判所の判断の概要
㈠ 本件管理契約の法的性質等
 本件管理契約は、被告が、消費者との間で分譲地(以下「被告分譲地」という。)を購入した者の委託に基づき、被告分譲地に存在する道路・温泉・下水道施設及び管理事務所等の共益施設を維持管理し、被告分譲地を購入した者の所有地について個別の管理を行うという点で、準委任契約の性質を有すると解されるが、同時にこれら被告が所有する共益施設を管理費という対価を支払うことによって使用することができるという利用契約を含むものであって、複合的な性質を有する契約であると解される。また、本件管理契約は、所有者が支払う管理費によって、各所有者が共通に利用する道路、温泉及び下水道などの共益施設の維持管理や分譲地内のパトロールなどの事務ないし業務を行うものであって、被告分談地の所有者全員に共通する利益を図ることを内容とするものである。


㈡ 法第10条前段該当性
ア 原告は、民法第656条により準委任契約に準用される同法第651条第1項は、当事者はいつでもその解除をすることができる旨定めているところ、 本件契約条項は同条による場合に比して消費者の権利を制限するものである旨主張するが、本件管理契約が単なる準委任契約ではなく、利用契約を含む複合的な法的性質であることは既に判示したとおりであって、直ちに本件管理契約に同条が適用されるものではない。
 本件管理契約について、個別の所有者による自由な解除を認めた場合には、被告の行う事務ないし業務の原資が限定されて、共益施設の維持・管理に支障が生じるだけでなく、最終的には被告による業務の継続が困難となって、被告分譲地所有者全体の利益を害するおそれがある。他方、被告分譲地を所有しつつ本件管理契約から離脱する所有者は、道路等の共益施設の利用を通じて被告による維持管理の成果を事実上享受しながら、管理費の支払を免れることになるのであって、かかる事態は、被告分譲地所有者間の衡平を損なうものである。そうすると、仮に準委任契約の法的性質に着目し、本件管理契約に民法第651条第1項を適用するとしても、同契約は受任者である被告のためにも締結されたものであるから、同項による解除は制限されると解すべきである。
イ 原告は、本件契約条項は一方の当事者の同意を得ることなく擬制的に契約を更新させるものである旨主張するが、同条項は、所有者が分譲地に土地を所有する間は更新する旨明確に定めているのであるから、本件管理契約の契約者は、同契約の締結に際し、更新に同意していると解するのが相当である。
ウ そうすると、本件契約条項が「法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項」に当たるとの原告の主張は採用できず、本件契約条項が消費者契約法10条前段に該当するとは認められない。


㈢ 法第10条後段該当性
ア 原告は、本件契約条項の意味内容は契約締結前に消費者に対して全く説明されていない旨主張するが、かかる事実を認めるに足りる証拠はない。
原告は、本件契約条項が解除権を放棄させる意味合いを含むことが明示されておらず、透明性の原則に反する旨も主張するが、本件契約条項の文言から被告分譲地を所有する間は本件管理契約が継続する旨を読み取ることに支障はなく、透明性を欠くものとも評価できない。
 したがって、本件契約条項には契約締結過程における情報提供の不適正がある旨の原告の主張は採用できない。
イ 原告は、本件契約条項を設けることは適合性の原則を満たさない旨主張するが、前記に判示したとおりであり、本件契約条項には合理性があり、消費者の利益を一方的に害するものとはいえない。
 原告は、本件分譲地が原野であり価値を有しないことから、所有者を本件管理契約に拘束することが不当である旨主張するが、本件分譲地が原野であって無価値であることを認めるに足りる証拠はなく、かえって証拠によれば、被告はその分譲地において道路、下水道施設、管理事務所等の共益施設の維持管理等を行っていることが認められる。
 寄せられた相談事例の多くは、被告と本件管理契約を締結した覚えがないにもかかわらず管理費の請求を受けたとするものや、被告による管埋の実体がないとするものであり、本件契約条項と直接関係するものではない。
 したがって、本件契約条項が法第10条後段に該当するとは認められない。


㈣ 小括
 以上のとおり、本件契約条項が法第10条により無効となるとは認められないから、同条違反を前提とする原告の各請求はいずれも理由がない。

参考資料

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判決日・事案終了日

令和3年9月14日

ステータス

終了

適格消費者団体

ひょうご消費者ネット

お問い合わせ先

078-361-7201

その他

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消費者庁公表資料

この事案の経過