消費者支援機構関西と合同会社ユー・エス・ジェイとの間の訴訟に関する控訴審判決について

差止請求詳細

事業分類

生活関連サービス業,娯楽業

事業者等名

合同会社ユー・エス・ジェイ

事案の内容

 本件は、適格消費者団体である特定非営利活動法人消費者支援機構関西(以下「一審原告」という。)が、テーマパーク「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」(以下「USJ」という。)を運営する合同会社ユー・エス・ジェイ(以下「一審被告」という。)に対し、①一審被告が消費者との間でインターネットを経由してチケットの購入契約を締結する際に適用される利用規約(WEBチケットストア利用規約)中にある、一定の場合を除き購入後のチケットのキャンセルができない旨の条項(別紙契約条項目録記載1の条項。以下「本件条項1」という。)が、消費者の利益を一方的に害する条項に該当するなど消費者契約法(以下「法」という。)第10条及び第9条第1号(※)の条項に当たると主張するとともに、②上記利用規約中にある、チケットの転売を禁止する旨の条項(別紙契約条項目録記載2の1.の条項。以下「本件条項2」といい、本件条項1と併せて「本件各条項」ともいう。)が、同じく法第10条の条項に当たると主張し、法第12条第3項に基づく差止請求として、本件各条項を内容とする意思表示の停止、本件各条項が記載された上記利用規約が印刷された規約用紙等の破棄及び上記の意思表示の停止等のための一審被告の従業員らに対する書面の配布を求めた事案である。
一審判決(大阪地方裁判所が令和5年7月21日に言渡し)が、一審原告の請求を全部棄却したところ、一審原告はこれを不服として大阪高等裁判所に控訴した。一審原告は控訴審において、別紙契約条項目録記載2の3.及び4.(以下併せて「本件追加条項」という。)が法第10条の条項に当たると主張して、本件追加条項について、その意思表示の停止、これらの条項が記載された上記利用規約が印刷された規約用紙等の破棄及び上記の意思表示の停止等のための一審被告の従業員らに対する書面の配布の各請求を予備的に追加する旨の訴えの変更をした。これに対し、一審被告は、上記訴えの変更について、異議を述べた。

(※)消費者契約法
(消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効)
第九条 次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。
 一 当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの 当該超える部分
 二 [略]

(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
第十条 消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

(注)上記の訴訟が提起された日現在の規定

差止請求根拠条文

消費者契約法第9条第1号、消費者契約法第10条

結果

大阪高等裁判所は、令和6年12月19日、以下のとおり判断して、控訴を棄却した(一審原告は同月27日付けで最高裁判所に上告及び上告受理申立てした。)。

当該裁判の主たる争点

ア 主たる争点
ⅰ)本件条項1は、法第10条前段要件を充足するか否か
ⅱ)本件条項1は、法第10条後段要件を充足するか否か
ⅲ)本件条項1は、法第9条第1号の規定する「解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項」に該当するか否か
ⅳ)本件条項1は、法第9条第1号の規定する「平均的な損害の額を超える」損害賠償等を定めるものにあたるか否か
ⅴ)本件条項2は、法第10条前段要件を充足するか否か
ⅵ)本件条項2は、法第10条後段要件を充足するか否か

イ 控訴審における裁判所の判断の概要
【本件追加条項に係る訴えの変更】
 一審原告は、控訴審において、予備的に本件追加条項に係る訴えの変更申立てをするところ、本件追加条項は、一審原告の主張するとおり、いわゆる権利没収条項であって、その存在自体が消費者の権利を制限するものであるということができるが、これらによって生じる消費者の不利益は、違約罰に類するものであって、キャンセルができない旨の条項(本件条項1)やチケットの転売を禁止する旨の条項(本件条項2)による不利益とは自ずと性質を異にする。そうすると、本件追加条項が本件各条項に違反した場合の効果を規定するものである点において、本件各条項と密接に関連するとはいえるものの、請求の基礎に変更がないとはいえず、また、仮にこれを認めた上で審理を行うとすれば、一審被告の審級の利益が侵害されることとなる。さらに、上記申立てがなされたのが本件口頭弁論終結の8日前であることから、一審被告において、その認否反論のため、改めて本件追加条項適用の実情の調査をすることによって訴訟手続の著しい遅延は避けられない。
したがって、上記訴えの変更申立てを許すことはできない。
【争点ⅰ】
 典型的な役務提供契約は、役務の提供を受ける必要がある役務受領者の利益のために行われるものであり、また、役務受領者にとってその役務の提供を受けることが不要となった場合あるいは役務の提供を受けることができなくなった場合にまで契約の終了を認めず、役務提供契約の効力を存続させることは社会経済的に非効率であるということはできる。
しかし、典型的な役務提供契約とは異なり、チケットを購入した個々の顧客と一審被告との間には人的信頼関係があるわけではない。そして、USJ内で提供される個々の役務と、顧客が購入したチケットに表章される個々の利用権との間には、直接の対応関係がなく、チケット購入者の個別的な事情により、役務の提供を受けることが不要となった場合あるいは役務の提供を受けることができなくなった場合であっても、一審被告は、変わらず役務を提供せざるを得ないシステムになっている。そうすると、本件チケットの購入契約においては、当事者間に人的信頼を基礎に置く委任契約に認められている民法第651条を類推適用して任意解除権を認めることは相当ではない(本件条項1について、法第10条前段該当性を認めることはできないとの一審判決の判断を維持)。
【争点ⅱ】
 確かに、誤購入や急な予定変更により、チケット購入者にとっても思わぬ形で、チケットが不要となる場合があるところ、一審被告が販売する本件チケットは、一般消費者が購入するチケットとしては高額であり、購入者の経済的負担は軽視できない。また、スタジオ・パスについては、無償で、本来の入場予定日の90日後までであれば、入場日を変更することが可能となったとはいえ、海外を含む遠隔地からの利用者については、旅行そのものが中止になったような場合には、90日以内にUSJを訪れるように日程を調整することは困難であることも少なくないと考えられる。
しかし、そうであるからといって、本件条項1が民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものと直ちに評価することはできない。そして、本件条項1の趣旨・目的がチケット価格の高額化を防ぐことにあり、合理性があることは、補正の上引用した一審判決第3の3で説示したとおりである。また、前述したとおり、USJ内で提供される個々の役務と顧客が購入したチケットに表章される個々の利用権との間には、直接の対応関係がなく、チケット購入者の個別的な事情により、役務の提供を受けることが不要となった場合あるいは役務の提供を受けることができなくなった場合であっても、一審被告は、変わらず役務を提供せざるを得ないシステムになっているのであるから、顧客が任意にキャンセルできることになれば、一審被告において役務提供のために要した費用に見合った収入を得られなくなるおそれがあることや、高額な転売を目的とする者が大量にチケットを購入することの防止がより困難になるおそれがあることに照らすと、本件条項1にはやはり相応の合理性があり、適合性、必要性及び均衡性のいずれかにおいて欠けるところがあるとは認められない。
また、本件条項1のただし書(法令上の解除または無効事由等がお客様に認められる場合はこの限りではありません。)の運用が不適切なものであれば、本来、キャンセルが認められるべき顧客の利益を不当に害することになると考えられるが、それは、本件条項1の定め方の瑕疵ではなく、解釈運用の不手際であるから、そのことによって、本件条項1が法第10条後段に該当するものとはいえない。
【争点ⅲ及びⅳ】
 一審判決で説示したとおり(本件条項1は、法第9条第1項第1号の条項に該当しない。)。
【争点ⅴ】
 チケットの転売は、一審被告から役務の提供を受ける権利の譲渡であり、債権譲渡であると解することができる。
そのような役務の提供を受ける権利については、長年、その権利が化体した無記名の有価証券類似の有体物としてのチケットが発行され、役務提供の対価である利用料金を支払った顧客が、その権利を表章するものとしてチケットを取得し、役務の提供を受ける権利は、チケットの所有権の移転に伴って移転し、当該施設において、チケットの所持者が役務の提供を受ける権利を有する者として取り扱われてきたことは公知の事実である。そして、一審被告が本件条項2によって、チケットの転売を禁止することは、商慣行として定着していたチケットの有価証券類似の機能を新たに制限するものであって、原則自由とされている債権譲渡を制限することになり、任意規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限するものというべきである。
 以上で検討したところによれば、本件条項2について、任意規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限するものということができるので、法第10条前段該当性が認められる。
【争点ⅵ】
 USJ内で提供される個々の役務と、顧客が購入したチケットに表章される個々の利用権との間には、直接の対応関係がなく、チケット購入者の個別的な事情により、役務の提供を受けることが不要となった場合あるいは役務の提供を受けることができなくなった場合であっても、一審被告は、変わらず役務を提供せざるを得ないシステムになっており、このような状況の下では、消費者が役務提供を受け得ない状態となったにもかかわらず、そのような消費者に対して事業者が債務を履行した場合と全く同一の対価を得たとしても不当な利益を得ることにはならない。
そして、①転売目的でチケットを購入した者と後発的にチケットが不要となった一般購入者の客観的な区別は困難であるし、②一審被告において転売価格を知ることは不可能であって、本来の防止目的である定価を超える転売であるか、通常転売者に利益の生じない定価以下の転売であるかを知ることもできないのであるから、これらの区別なく一律に転売を禁止することはやむを得ないところである。そして、転売が禁止された以上、③禁止に反して転売されたチケットが無効となり、④USJ内で提供される役務を受領できなくなった購入者は、チケット購入契約による経済的負担を回収する機会を失うことになるが、転売の禁止には、高額な転売を目的とする者の買い占めを防止し、それによって消費者である顧客に対し、自由な転売市場において形成されるであろう高額な転売価格に比べて低廉な定価で安定してチケットを購入できる機会を保障するという、消費者にとって利益となる目的・効果があると認められる以上、それが消費者の一方的な不利益をもたらすものということはできない。なお、チケット不正転売禁止法は、不正な転売行為を強行法規によって規制するものであって、事業者が自ら販売するチケットの転売制限の上限を画ずるものではないから、本件条項2が不正転売禁止法よりも制限的であるとしても、本件条項2が法第10条後段に該当すると認めることはできない。
以上を踏まえれば、本件条項2にも相応の合理性があり、適合性、必要性及び均衡性のいずれかにおいて欠けるところがあるとは認められない。
なお、転売サイト(リセールサイト)の開設は、転売目的でチケットを購入した者が依然としてチケットの保有を継続中であると考えられる、チケットの発売開始に近接した時期に誤購入した購入者の救済には一定の効果があると考えられるものの、他方、そのような誤購入は、錯誤等、法令上の解除又は無効事由等が認められる場合に当たることが多いと推認されるから、リセールサイトを開設しなくても、一審被告が本件条項1のただし書を適切に運用することによって救済が可能と考えられる。これに対し、使用予定日近くに差し支えが生じて行けなくなった購入者については、転売目的でチケットを購入した者が売れ残ったチケットを処分するためにも転売サイトが利用可能となるから、時期的に、転売目的購入者の売れ残りチケットの処分と競合し、その結果、チケットの一般購入者がその損失を回避できなくなることもあり得るところであり、リセールサイトを開設してもその救済効果には限界があると考えられる。そうすると、経営上の判断から、一審被告においてリセールサイトを開設していないことが、直ちに消費者の利益を一方的に害するものということは困難である。

ウ 結論
 以上の次第で、一審原告の訴えの変更(追加請求)はこれを許さないこととし、一審原告のその余の請求はいずれも理由がなく、これを棄却した一審判決は相当であるから、本件控訴を棄却する。

参考資料


判決日・事案終了日

令和6年12月19日

ステータス

係争中

適格消費者団体

消費者支援機構関西

お問い合わせ先

06-6945-0729

その他

-

消費者庁公表資料

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