消費者支援機構関西と合同会社ユー・エス・ジェイとの間の訴訟に関する判決について

差止請求詳細

事業分類

生活関連サービス業,娯楽業

事業者等名

合同会社ユー・エス・ジェイ

事案の内容

 本件は、適格消費者団体である特定非営利活動法人消費者支援機構関西(以下「原告」という。)が、テーマパーク「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」(以下「USJ」という。)を運営する合同会社ユー・エス・ジェイ(以下「被告」という。)に対し、①被告が消費者との間でインターネットを経由してチケットの購入契約を締結する際に適用される利用規約(WEBチケットストア利用規約)中にある、一定の場合を除き購入後のチケットのキャンセルができない旨の条項(以下「本件条項1」という。)が、消費者の利益を一方的に害する条項に該当するなど消費者契約法(以下「法」という。)第10条及び第9条第1号の条項に当たると主張するとともに、②上記利用規約中にある、チケットの転売を禁止する旨の条項(以下「本件条項2」といい、本件条項1と併せて「本件各条項」ともいう。)が、同じく法第10条の条項に当たると主張し、法第12条第3項に基づく差止請求として、本件各条項を内容とする意思表示の停止、本件各条項が記載された上記利用規約が印刷された規約用紙等の破棄及び上記の意思表示の停止等のための被告の従業員らに対する書面の配布を求めた事案である(令和元年10月16日付けで大阪地方裁判所に対して訴訟を提起)。

 (※)消費者契約法
(消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効)
第九条 次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。
一 当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの 当該超える部分
二 [略]
(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
第十条 消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。
(注)上記の訴訟が提起された日現在の規定

差止請求根拠条文

消費者契約法第9条第1号、消費者契約法第10条

結果

 大阪地方裁判所は、令和5年7月21日、以下のように判断した上で、原告の請求をいずれも棄却した(原告は同年8月3日付けで大阪高等裁判所に控訴した。)。

当該裁判の主たる争点

ア 主たる争点
 ⅰ)本件条項1は、法第10条前段要件を充足するか否か
 ⅱ)本件条項1は、法第10条後段要件を充足するか否か
 ⅲ)本件条項1は、法第9条第1号の規定する「解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項」に該当するか否か
 ⅳ)本件条項1は、法第9条第1号の規定する「平均的な損害の額を超える」損害賠償等を定めるものにあたるか否か
 ⅴ)本件条項2は、法第10条前段要件を充足するか否か
 ⅵ)本件条項2は、法第10条後段要件を充足するか否か

イ 主たる争点についての裁判所の判断の概要
 【争点ⅰ】
  原告は、チケット購入契約は、準委任契約であり、仮に準委任契約に該当しないとしても役務提供契約の受け皿規定である準委任契約に準じて検討されるべきであり、いずれにしても法第10条にいう任意規定としての委任者の任意解除権(民法第656条及び第651条第1項)についての規定が適用ないし準用(又は類推適用)されるとして、上記任意解除権を制限する本件条項1は、任意規定の適用による場合に比して、消費者の権利を制限する条項にあたる旨の主張をする。
  しかしながら、チケット購入契約は、民法上の典型契約に該当しない無名契約であると見受けられることに加えて、チケット購入契約の内容は、法律行為ではない事務の委託を目的とする準委任契約とは、相当に異質な内容を含んでいるものといわざるを得ない。すなわち、チケット購入契約において、被告が提供する役務は、非日常的空間を創出し、アトラクション等を稼働して利用させるなどするものであるが、当該顧客のみならず不特定多数の顧客にも同時に被告があらかじめ定めた役務を提供するもので、個々のチケット購入契約の購入者と当該役務の内容との関連性は希薄である上、上記購入者から被告に対する何らかの特定の事実行為の委託等の要素は見出すことができず、このような点に照らすと、チケット購入契約において被告が一定の役務を提供するという側面があったとしても、この点をもって準委任契約ないしこれに準ずるものと捉えるのは困難である。
  したがって、チケット購入契約を準委任契約ないしそれに準ずるものとみることは困難であるほか、任意解除権(民法第656条及び第651条第1項)を認める基礎となる当事者間の信頼関係があるとも見受けられず、チケット購入契約に任意解除権についての規定が適用ないし準用(又は類推適用)されるということはできないから、原告の上記主張を採用することはできない。
以上から、本件条項1について、法第10条前段該当性を認めることはできない。
 【争点ⅱ】
 本件条項1が定められた趣旨及び目的を考察すると、本件条項1は、任意かつ自由なキャンセルを認めると、一部のチケットの高額な転売を目的とする者が、大量にチケットを購入した上で、これを被告の販売価格よりも高額で転売し、転売ができなかったチケットはキャンセルするというような手法等を取ることによって、本来被告が販売する正規のチケット価格で入場等することができるはずであった顧客が、かかる高額のチケットを購入せざるを得なくなる事態を避けるためのもので、チケット価格の高額化を防ぐ目的を有するものといえ(かかる目的を有することについて当事者間に争いはない。)、このような趣旨及び目的は合理性のあるものということができる。
  そして、このようなチケット価格の高額化の防止によって、顧客がUSJに来場する意欲を減退させることを防ごうとする被告のみならず、消費者である顧客も、チケットの転売者から高額化したチケットを入手しなくとも、正規の販売価格でチケットを入手してUSJに入場等することができ、それによる利益を得ているものと評価することができるから、顧客と被告の双方において、上記手法等によるチケット価格の高額化による不利益を免れているといえ、このような本件条項1は、被告のみを一方的に利するものであるとは認められない。
  さらに、顧客による誤購入がないよう一定の配慮がされ、本件各条項の内容も複数回にわたって表示されるなど顧客もその内容を十分に認識して契約しているといえること、一部のチケットでは顧客の予定変更等に伴う日程の変更にも応じられていることなど上記で説示した各事情に照らせば、本件条項1は、消費者である本件チケットの購入者と事業者である被告との間の情報や交渉力等についての一般的な格差を考慮しても、信義則に反する程度に当事者間の衡平を害するものということはできず、したがって、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものということはできない。
 【争点ⅲ及びⅳ】
  本件条項1は、その文理からすれば、一定の場合を除き、チケット購入契約の解約ができない旨を定めるものであって、法第9条第1号の規定する契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であるとは捉えられない(したがって、「平均的な損害の額を超える」損害賠償等を定めるものか否かは判断の必要がない。)。
 【争点ⅴ】
  原告は、本件条項2について、チケットの転売は被告から役務の提供を受ける権利の譲渡であり、債権譲渡と捉えるべきであるところ、原則自由とされている債権譲渡を制限するもので、任意規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限するものである旨の主張をする。
  しかし、被告との間でチケットの購入契約を締結して本件チケットを購入した者は、購入したチケットの内容に応じて、被告から、非日常的な空間として創られたUSJに入場させ、アトラクション等を稼働して利用させるなどの役務の提供を受けることができるものであるが、他方で、チケットの購入者には、手荷物検査、分煙、撮影、危険物等の物品の持込み禁止等のUSJの園内における各種制約等も遵守することが求められ、仮にチケットの転売が許容されたとしても、チケットを譲り受けた者は、チケットの購入者が遵守を求められていたこのような制約等も承継して遵守することが求められると解されるのであり、このような側面をみると、チケットの転売には、債権譲渡に還元できない要素があり、被告とチケット購入者との間の複合的な権利義務関係としての法的地位の移転を伴うものとして、契約上の地位の移転とみるべきである。
  原告は、チケットの転売を契約上の地位の移転と捉えても、当該契約の相手方は誰でも構わない状態債務のようなものであるとして、相手方である被告の承諾は不要である旨の主張をするが、契約上の地位を移転するためにはその契約の相手方の承諾が必要とされているところ(民法第539条の2)、本件チケットの転売を自由に認めると、チケット価格が高額化するなどの弊害が生じるおそれがあり、誰がどのような目的で転売をし、転売を受けるのかについては被告も合理的な利害ないし関心を有しているということができることからすれば、本件チケットの転売である契約上の地位の移転について、上記規定と異なる解釈を採るべき理由はなく、被告の承諾は不要である旨の原告の上記主張も採用できない。
  以上で検討したところによれば、本件条項2について、任意規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限するものということはできず、法第10条前段該当性を認めることはできない。
 【争点ⅵ】
  本件条項2が定められた趣旨及び目的は、高額で転売する目的でのチケットの入手及び販売という手法等を封じることで、チケット価格の高額化を防ぐことにあり、このような趣旨及び目的は合理性のあるものということができ、これによって、被告のみならず、消費者である顧客においてもチケット価格の高額化による不利益を免れるという利益を得ており、本件条項2は被告のみを一方的に利するものとは認められないものでもあること、実際に、現時点においても本件チケットがインターネット上において高額で取引されている例も見受けられ、かかる状況下においては、上記の目的を達成するために本件条項2を維持する必要性は否定できないこと、②また、チケット購入後の購入者らの事情変更等は専ら顧客側の事情によるものであるほか、誤購入に関しても、被告は、入場日等の確認を再度顧客に促すなどして顧客による誤購入がないよう注意喚起をしており、顧客による誤購入への一定の配慮がされていると評価できること、③さらに、最終的なチケットの購入に至るまでの各画面において、複数回にわたって本件各条項の内容が繰り返し表示されるなどしており、顧客においても、本件各条項の内容について十分な認識を持ったうえで、チケット購入契約を締結しているということができ、顧客と被告との間に本件各条項についての理解の差があるとは認められないこと、④加えて、顧客の予定変更等に伴う日程の変更についても、一部のものを除きスタジオ・パスについては、経済的負担なく長期間といえる期間内での入場日の変更が可能とされており、相当程度の対処がされているとみることができることなどの各事情に照らせば、本件条項2は、信義則に反する程度に当事者間の衡平を害するものということはできず、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものということはできない。

ウ 結論
 原告の請求はいずれも理由がないからこれらをいずれも全部棄却することとして、主文のとおり判決する。

参考資料

-

判決日・事案終了日

令和5年7月21日

ステータス

係争中

適格消費者団体

消費者支援機構関西

お問い合わせ先

06-6945-0729

その他

-

消費者庁公表資料

この事案の経過

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