消費者支援ネットワークいしかわと株式会社スタジオB’Mとの間の訴訟に関する控訴審判決の確定について

差止請求詳細

事業分類

不動産業,物品賃貸業

事業者等名

株式会社スタジオB’M

事案の内容

 本件は、適格消費者団体である特定非営利活動法人消費者支援ネットワークいしかわ(以下「消費者支援ネットワークいしかわ」という。)が、主として成人式用の振袖のレンタル事業を行う株式会社スタジオB’M(以下「スタジオB’M」という。)に対し、スタジオB’Mが不特定かつ多数の消費者との間で貸衣装契約を締結する際に現に使用し、又は今後使用するおそれのある、○A貸衣装契約の解約時に消費者が負担する解約金(キャンセル料金)に関する別紙1契約条項目録記載1の条項(以下「本件各解約金条項」という。)は、消費者契約法(以下「法」という。)第9条第1号所定の平均的な損害の額を超える損害賠償の額を予定し、又は違約金を定めるものであって無効であり、○Bレンタル商品に汚損が生じた場合に消費者が負担するクリーニング代金や修理代金に関する同目録記載2の条項(以下「本件クリーニング代等負担条項」といい、本件各解約金条項と併せて「本件各条項」という。)は、法第10条(※1)所定の消費者の義務を加重するものであり、民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものであって無効である旨主張して、○C法第12条第3項に基づき、㋐スタジオB’Mが消費者との間で貸衣装契約を締結する際に本件各条項を内容とする意思表示をすることの差止め、㋑本件各条項が印刷された用紙の廃棄、並びに㋒スタジオB’Mの従業員らに上記㋐及び㋑を指示する書面の配布を求めた事案である。

 原判決(金沢地方裁判所が令和5年2月9日に言渡し)は、消費者支援ネットワークいしかわの請求を一部認容した(上記○Aについて、同目録記載1の条項のうち④は、レンタル料金の93%を超える解約金を定める部分は平均的な損害を超えるものであり、①から③まで及び⑤は平均的な損害を超えるものではないと認め、上記○Bについて、消費者支援ネットワークいしかわの主張を認め、上記○Cについては、上記○A及び○Bで消費者支援ネットワークいしかわの主張に理由があると認めた範囲で認めた。)ところ、消費者支援ネットワークいしかわが敗訴部分につき控訴し、スタジオB’Mが附帯控訴した(以下、消費者支援ネットワークいしかわを「控訴人」、スタジオB’Mを「被控訴人」という。)。

(※1)消費者契約法
 (消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効)
第九条 次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。
 一 当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの 当該超える部分
 二 [略]
 (消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
第十条 消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

(注)上記の訴訟が提起された日現在の規定

差止請求根拠条文

消費者契約法第9条第1号、消費者契約法第10条

結果

 名古屋高等裁判所金沢支部は、令和5年11月1日、以下のように判断した上で、控訴及び附帯控訴をいずれも棄却した(控訴人は同月13日付けで最高裁判所に上告及び上告受理申立てした。)。
 最高裁判所に行った上告及び上告受理申立てについて、令和6年5月29日に、それぞれ上告棄却及び申立て不受理の決定がされ、差止請求を一部認容した控訴審判決が確定した。

当該裁判の主たる争点

ア 主たる争点
ⅰ)本件各解約金条項は平均的な損害を超える解約金を定めるものか
ⅱ)本件各条項を内容とする意思表示の差止め等の要否イ 主たる争点についての裁判所の判断の概要

イ 主たる争点についての裁判所の判断の概要
【争点ⅰ】
 (ア)控訴人は、逸失利益が平均的な損害に含まれるものとした場合であっても、着物をレンタルするにはレンタルする着物を仕入れることは不可欠であり、仕入費用が不可欠に付随する以上、レンタル料金全体が丸々利益となるわけではないから、逸失利益はレンタル料金の額に粗利率を乗じて計算すべきであり、粗利率は売上高から売上原価(被控訴人が貸衣装を購入した費用)を減じ、売上高で除して算出すべきである旨主張する。
しかし、損害として売上相当額(本件契約ではレンタル料金)から控除すべきは被控訴人が本件契約の解除により支出を免れた費用であり、レンタル業において不可欠に付随する費用を全部控除するという考えはとり得ない。そして、本件契約の解除によって貸衣装の購入費用に相当する金額の支出を免れるとは認められないことは、原判決「事実及び理由」欄の第3の2(1)オ(イ)に説示するとおりである。
 したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
 (イ)控訴人は、オーダーレンタルの場合に、被控訴人と継続的な取引関係にある仕立屋が製作に着手していなければ、解約によって製作費の支払を求めないことは十分に考えられる旨主張するが、被控訴人が仕立屋に対する代金の支出を免れることを認めるに足りる証拠はない。
 したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
 (ウ)控訴人は、前撮りの際の写真撮影枚数の追加は、追加申込みをした者だけに行われ、追加申込みをした者だけが追加料金を支払うもので、振袖のレンタル契約とは全く別個の撮影契約であるから、振袖のレンタル契約を解約すること自体によって発生する損害ではない旨主張する。
 しかし、原判決「事実及び理由」第3の1の認定事実(2)(以下、単に「認定事実(2)」のように表記する。)によれば、本件契約にはサービスとして一定枚数の前撮りの写真撮影が含まれており、本件契約を締結した顧客のうちの多数の者がレンタル料金のほかに追加料金を支払って、前撮りの際の写真撮影枚数を追加していることが認められるところ、このような事実に照らすと、振袖のレンタルと写真撮影を完全に別個の契約と解することはできず、上記追加料金に相当する額は通常生ずべき損害と認められる。
 したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
 (エ)控訴人は、前撮りに関する追加料金を損害とするとしても、原判決の損害の算定方法について合理性がない旨主張する。
 しかし、認定事実(1)及び証拠によれば、振袖のレンタル契約の料金は販売の場合の50%~60%程度に設定されていると認められること、被控訴人の振袖のレンタルの売上が振袖の販売の売上の1.5倍以上であることからすれば、レンタル契約の契約者の人数は販売の契約者の人数の二、三倍又はそれを超える人数であることが認められる。そして、振袖のレンタルの売上が被控訴人の総売上の4割程度を占めていること、振袖のレンタルの売上の大部分が成人式用の振袖のレンタル料金であることに鑑みれば、成人式用の振袖レンタルに係るスタジオ売上は少なくともスタジオ売上全体の2分の1を下回るものではないことが優に推認できる。そして、上記のようにレンタル契約の契約者の人数が販売の契約者の入数を大きく超えていること、本件契約を締結した顧客のうちの多数の者が前撮りの際の写真撮影枚数を追加していることからすれば、振袖のレンタルの売上と振袖のレンタルに係るスタジオ売上の比率を振袖のレンタル料金の平均単価と振袖のレンタルに係る前撮りに関する追加料金の客平均単価に投影する方法も不合理とはいえない。また、一般的に目標平均単価は相応の根拠をもって設定されているとみることができ、一人当たりの平均単価は月によって大きく異なるとも解されない。
 したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。

【争点ⅱ】
 被控訴人は、原判決主文のとおりの対応を済ませているから、被控訴人において控訴人が主張する条項を含む消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示を現に行い又は行うおそれはない旨主張し、これに沿う証拠を提出する。
 しかし、上記各証拠のみから被控訴人が原判決主文のとおりの対応を済ませていると認めるに足りず、また、被控訴人が本件クリーニング代等負担条項を含む消費者契約の申込み又は承諾の意思表示を行うことを今後再開し、継続する蓋然性があることは否定されないというべきである。
 したがって、被控訴人の上記主張は採用することはできない。

ウ 結論
 よって、原判決は相当であり、本件控訴及び附帯控訴はいずれも理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。

参考資料   

判決日・事案終了日

令和6年5月29日

ステータス

終了

適格消費者団体

消費者支援ネットワークいしかわ

お問い合わせ先

076-254-6733

その他

-

消費者庁公表資料

この事案の経過