消費者機構日本と株式会社エーチーム・アカデミーとの間の訴訟に関する控訴審判決の確定について

差止請求詳細

事業分類

教育,学習支援業

事業者等名

株式会社エーチーム・アカデミー

事案の内容

 本件は、適格消費者団体である特定非営利活動法人消費者機構日本(以下「一審原告」という。)が、芸能人養成スクールを経営する株式会社エーチーム・アカデミー(以下「一審被告」という。)に対し、一審被告の定めた学則中の「退学又は除籍処分の際、既に納入している入学時諸費用については返還しない」旨の条項(以下「本件条項」という。)は、消費者契約法(以下「法」という。)第9条第1号(※)の規定に該当すると主張して、法第12条第3項の規定に基づき、①本件条項を内容とする意思表示の差止め、②本件条項が記載された契約書等の破棄措置、③一審被告の従業員らに対し、①及び②に関する周知徹底措置をとることを求めた事案である。
 一審判決は(東京地方裁判所が令和3年6月10日に言渡し)、一審原告の請求を一部認容した(一審被告に対し、①退学又は除籍処分の際、既に納入している入学時諸費用を、13万円を超えて返還しないとの意思表示の差止め、②当該意思表示が記載された契約書等の破棄措置、③一審被告の従業員らに対し、①及び②に関する周知徹底措置をとることを命じた。)ところ、一審原告及び一審被告は、それぞれの敗訴部分を不服として、東京高等裁判所に控訴した。

(※)消費者契約法
  (消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効)
第九条 次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。
一 当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの 当該超える部分
二 〔略〕  
(注)上記の訴訟が提起された日現在の規定

差止請求根拠条文

消費者契約法第9条第1号

結果

 東京高等裁判所は、令和5年4月18日、以下のとおり判断して、一審被告に対し、①退学又は除籍処分の際、既に納入している入学時諸費用を、7万円を超えて返還しないとの意思表示の差止め、②当該意思表示が記載された契約書等の破棄措置、③一審被告の従業員らに対し、①及び②に関する周知徹底措置をとることを命じ、その余の控訴を棄却した(一審被告は、同月27日付けで最高裁判所に上告及び上告受理申立てした。)。
 一審被告が最高裁判所に行った上告及び上告受理申立てについて、令和6年3月15日に、それぞれ上告棄却及び申立て不受理の決定がされ、差止請求を一部認容した控訴審判決が確定した。

当該裁判の主たる争点

ア 主たる争点
  ⅰ)一審被告が不特定かつ多数の消費者との間で本件条項を含む消費者契約の締結を現に行い又は行うおそれがあるか否か
  ⅱ)本件条項が消費者契約の解除に伴う損害賠償額を予定し、又は違約金を定める条項に当たるか否か
  ⅲ)本件条項に定める入学時諸費用の額について平均的な損害の額を超える部分の有無及びその金額

イ 主たる争点についての裁判所の判断の概要
【争点ⅰ】
 争点ⅰに対する判断は、一審判決21頁9行目から同23頁9行目までに記載のとおりであるから、これを引用する(一審被告が不特定かつ多数の消費者との間で本件条項を含む消費者契約の締結を現に行い又は行うおそれがある。)。

【争点ⅱ】
 ㈠ 一審被告は、入学時諸費用は、一審被告が経営する芸能人養成スクール(以下「本件スクール」という。)に入学し得る地位を取得するための対価としての性質を有する金員(権利金的性質を有する金員)である旨主張する。
  しかし、本件スクールに関しては、修業年限や人的物的設備の充足等について法令上の規制等が設けられておらず、レッスン課程、収容定員、授業料・入学料等の費用について所轄官庁の監督を受けるなどといった事情もないから、法令による規制や所轄官庁の監督等が行われている大学と同列に論ずることはできない。
  また、本件スクールに入学し得る地位を維持しつつ、他の芸能人養成スクール等を併願するといった状況があるとは証拠上認められないから、受講生において、本件スクールに入学し得る地位を維持するために対価を支払うべき必要があるかには疑義がある。
  さらに、入学時諸費用は38万円とされ、他方、1年間の月謝総額が36万円であるところ、一般的にみて、入学時諸費用の額は、本件スクールに入学し得る地位を取得するための対価として著しく高額である。
  以上から、入学時諸費用については、本件スクールに入学し得る地位を取得するための対価としての性質を有する金員であると認めることはできない。
 ㈡ 一審被告は、本件条項は、一審被告が受講生に対して負担する債務の履行を終えている部分の経済的利益について中途退学する受講生に返還しないとの当然の事柄を規定しているにすぎず、本件受講契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し又は違約金を定める条項には該当しない旨主張する。
  しかし、一審被告が主張する費用等の中には、個々の本件受講契約の締結の有無とは関わりなく支出される費用が複数存在することが認められ、これらについては、個々の本件受講契約ごとに債務の履行の有無を判断することはできない。結局、入学時諸費用の中には、本来であれば、本件受講契約が解除された場合に、一審被告が受講生に対して返還すべき部分が存在する。
 ㈢ 以上の検討から、本件条項は、本件受講契約の解除に伴う損害賠償額の予定又は違約金の定めの性質を有する。

  【争点ⅲ】
 ㈠ 法第9条第1号の「平均的な損害の額」とは、当該事業者が締結する多数の同種契約事案について類型的に考察した場合に算定される平均的な損害の額をいい、具体的には、解除の事由、時期等により同一の区分に分類される複数の同種の契約の解除に伴い、当該事業者に生じる損害の額の平均値をいうものと解される。
  本件においては、受講生が入学時オリエンテーションを受講した日から起算して8日を経過した後に、本件受講契約が解除された場合に、これに伴い生じる損害の額の平均値が問題となるから、損害と解除との間に相当因果関係が認められる必要がある。
  また、一審被告が受講生の入学に伴い本件受講契約上の義務を履行するために必要となった経費(以下「入学に伴う必要経費」という。)は、本件受講契約が解除された場合においても、受講生にその負担を求めることが正当化されるものであるから、上記解除に伴う損害に当たると解する。
 ㈡ 以上の観点から、一審被告が本件受講契約に関して支出する費用について検討する。
 ア エー・ライツに対する手数料について
  一審被告は、エー・ライツからの紹介によって受講生を獲得できる関係にあるため、手数料として受講生一人につき33万9000円(税込)を支払う必要があり、これは平均的な損害に含まれる旨主張する。
  しかし、本件受講契約ごとに、エー・ライツに対する手数料の支払義務が発生する客観的な証拠は存在せず、一審被告の役員の供述も的確な裏付けを伴わない。結局、エー・ライツに対する手数料は入学に伴う必要経費に当たるとはいえない。
 イ 業務委託費用について
  ①一審被告は、株式会社カートエンターテイメント(以下、「カートエンターテイメント」という。)に対して、本件スクールの運営に係る実務、所属タレントの派遣及び講師の斡旋を業務委託している。一審被告は、カートエンターテイメントに対し、業務委託費用として、入金された入学金のうち1万5000円(税別)及び授業料のうち50%を支払う合意をしており、本件受講契約が解除された場合も、上記業務委託費用の支払義務は免除されない。したがって、1万5000円は、入学に伴う必要経費として、平均的な損害に含まれる。
  ②一審被告は、劇団トワイライトムーン株式会社(以下、「劇団トワイライトムーン」という。)に対して、本件スクールの入学手続全般に係る事務を担当させ、業務委託費用として、入学金1件につき2万円を支払う合意をしており、本件受講契約が解除された場合も、上記業有無委託費用の支払義務は免除されない。したがって、2万円は、入学に伴う必要経費として、平均的な損害に含まれる。
 ウ 宣材写真撮影委託費用について
 一審被告が支払う宣材写真撮影委託費用2516円は、本件受講契約の解除に伴い一審被告に発生する平均的な損害に含まれる。
 エ 教材費について
  教材費(595円)が、平均的な損害に含まれることには当事者間に争いがない。
 オ 入学対応のための賃料について
  建物賃料は、本件受講契約を解除した受講生のみならず、その他の受講生との関係においても必要となる費用であり、解除に伴い一審被告に生じる損害には含まれない。
 カ 光熱費について
  光熱費は、本件受講契約を解除した受講生のみならず、その他の受講生との関係においても必要となる費用であり、解除に伴い一審被告に生じる損害には含まれない。
 キ ローン会社に対する保証金について
  一審被告の主張によっても、株式会社セディナの入学金ローンを利用する者は、直近決算期において443人であって、同期における入学者数1983人の4分の1以下にすぎないから、ローン会社に対する保証金は、本件受講契約の解除に伴って類型的に生ずる損害とはいえない。
 ク 履行利益について
  受講生が本件受講契約の解除をする場合において、当該受講生との関係において直ちにその就学予定期間の全部にわたり月謝が支払われる蓋然性があったとは認め難いから、履行利益(授業料)は、本件受講契約の解除に伴い一審被告に生じる平均的な損害に含まれない。
 ケ 入学に伴う人件費について
  一審被告は、その従業員をして、入学前後の諸手続を行っているところ、この事務として、入学時諸費用納入に係るデータ処理、着金連絡、オリエンテーションの実施の候補日の伝達及び日程調整、オリエンテーション受講予約サイトへの登録、オリエンテーション会場の設営・撤去、受付、書類回収確認、月謝の支払確認に関する手続、受講予約サイト用の写真撮影、オリエンテーション当日の説明、オリエンテーション終了後における月謝引落手続申請、変則受講受付等が行われていることが認められる。
  入学に伴う人件費は、個々の本件受講契約との関係で支出が必要となる入学に伴う必要経費であるとみるのが相当であり、本件受講契約の解除に伴い一審被告に生じる平均的な損害であると認められる。
  その金額については、金額の当否について、一審原告から具体的な主張立証がないことなどからすれば、一審被告の主張する合計2万4556円と認定するのが相当である。
 ㈢ 以上の検討によれば、本件条項に関し、本件受講契約の解除に伴い一審被告に生ずべき平均的な損害に含まれるものとして、①カートエンターテイメントに対する業務委託費用(1万5000円)、②劇団トワイライトムーンに対する業務委託費用(2万円)、③宣材写真撮影委託費用(2516円)、④教材費(595円)、⑤入学に伴う人件費(2万4556円。以上合計6万2667円)が認められるところ、①及び②を除く費用については、年度によって金額に増減が生じ得るとしても、本件受講契約の解除に伴い一審被告に生ずべき平均的な損害の額は、7万円を超えるものではないと認めるのが相当である。
 ㈣ 本件条項のうち入学諸費用(38万円)につき7万円を超えて返還しないとの部分は、本件受講契約の解除に伴い一審被告に生ずべき平均的な損害を超えるものというべきである。

 ウ 結論
よって、一審原告の控訴は一部理由があるから、一審原告の控訴に基づき原判決を変更し、一審被告の控訴には理由がないから、これを棄却する。

参考資料

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判決日・事案終了日

令和6年3月15日

ステータス

終了

適格消費者団体

消費者機構日本

お問い合わせ先

03-5212-3066

その他

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消費者庁公表資料

この事案の経過