京都消費者契約ネットワークとサン・クロレラ販売株式会社との間の訴訟に関する上告審判決について

差止請求詳細

事業分類

製造業

事業者等名

サン・クロレラ販売株式会社

事案の内容

 本件は、適格消費者団体である特定非営利活動法人京都消費者契約ネットワーク(以下「京都消費者契約ネットワーク」という。)が、健康食品の小売販売等を目的とするサン・クロレラ販売株式会社(以下「サン・クロレラ販売」という。)に対し、サン・クロレラ販売が自ら又は第三者をして健康食品の効能等の表示(以下「本件表示」という。)を含む新聞折込みのチラシ(以下「本件チラシ」という。)を配布することが、サン・クロレラ販売の商品について不当景品類及び不当表示防止法(以下「景表法」という。)第10条第1号(※)の表示(優良誤認表示)及び消費者契約法第4条第1項第1号(※)の告知(不実告知)に該当するとして、景表法第10条第1号、消費者契約法第12条第1項及び第2項(※)の規定に基づき、サン・クロレラ販売が自ら又は第三者をして本件チラシに本件表示をする行為の差止め等を求めた事案である。

 第1審判決は(京都地方裁判所が平成27年1月21日に言渡し)、サン・クロレラ販売は本件チラシの配布によりサン・クロレラ販売の商品について景表法第10条第1号に規定する優良誤認表示を行ったことが認められ、今後もサン・クロレラ販売が自ら又は第三者をして当該商品について当該優良誤認表示を行うおそれがあると認められるとして、京都消費者契約ネットワークの請求を全て認容したところ、サン・クロレラ販売がこれを不服として大阪高等裁判所に控訴した。

 原判決は(大阪高等裁判所が平成28年2月25日に言渡し)、①景表法に基づく差止請求については、サン・クロレラ販売が自ら又は第三者をして本件表示を含む本件チラシを現時点では配布しておらず、今後も配布する予定はない旨の陳述をしていることなどから、現段階ではサン・クロレラ販売が優良誤認表示を行うおそれがあるとまでは認められない、②消費者契約法に基づく差止請求については、消費者契約法第12条第1項及び第2項にいう「勧誘」には、事業者が不特定多数の消費者に向けて広く行う働き掛けは含まれず、個別の消費者の契約締結の意思の形成に影響を与える程度の働きかけを指すものと解され、本件チラシの配布は不特定多数の新聞購読者に向けた発信にすぎず、本件チラシの配布を行った時点でサン・クロレラ販売が特定の消費者に対する勧誘行為を行ったとみることはできないとして、本件チラシの配布行為は消費者契約法第12条第1項及び第2項にいう「勧誘」には当たらないとして、第1審判決を取消し、京都消費者契約ネットワークの請求を全て棄却したところ、京都消費者契約ネットワーク(以下「上告人」という。)は、当該判決を不服として最高裁判所に上告及び上告受理申立てをした。

(※)景表法
 (適格消費者団体の差止請求権等)
第十条 消費者契約法(平成十二年法律第六十一号)第二条第四項に規定する適格消費者団体(以下この条及び第二十一条において単に「適格消費者団体」という。)は、事業者が、不特定かつ多数の一般消費者に対して次の各号に掲げる行為を現に行い又は行うおそれがあるときは、当該事業者に対し、当該行為の停止若しくは予防又は当該行為が当該各号に規定する表示をしたものである旨の周知その他の当該行為の停止若しくは予防に必要な措置をとることを請求することができる。
 一 商品又は役務の品質、規格その他の内容について、実際のもの又は当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると誤認される表示をすること。
 二 [略]
2・3 [略]

(※)消費者契約法
 (消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消し)
第四条 消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次の各号に掲げる行為をしたことにより当該各号に定める誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。
 一 重要事項について事実と異なることを告げること。 当該告げられた内容が事実であるとの誤認
 二 [略]
2~5 [略]

 (差止請求権)
第十二条 適格消費者団体は、事業者、受託者等又は事業者の代理人若しくは受託者等の代理人(以下「事業者等」と総称する。)が、消費者契約の締結について勧誘をするに際し、不特定かつ多数の消費者に対して第四条第一項から第三項までに規定する行為(同条第二項に規定する行為にあっては、同項ただし書の場合に該当するものを除く。次項において同じ。)を現に行い又は行うおそれがあるときは、その事業者等に対し、当該行為の停止若しくは予防又は当該行為に供した物の廃棄若しくは除去その他の当該行為の停止若しくは予防に必要な措置をとることを請求することができる。ただし、民法及び商法以外の他の法律の規定によれば当該行為を理由として当該消費者契約を取り消すことができないときは、この限りでない。
2 適格消費者団体は、次の各号に掲げる者が、消費者契約の締結について勧誘をするに際し、不特定かつ多数の消費者に対して第四条第一項から第三項までに規定する行為を現に行い又は行うおそれがあるときは、当該各号に定める者に対し、当該各号に掲げる者に対する是正の指示又は教唆の停止その他の当該行為の停止又は予防に必要な措置をとることを請求することができる。この場合においては、前項ただし書の規定を準用する。
 一 受託者等 当該受託者等に対して委託(二以上の段階にわたる委託を含む。)をした事業者又は他の受託者等
 二 事業者の代理人又は受託者等の代理人 当該代理人を自己の代理人とする事業者若しくは受託者等又はこれらの他の代理人

(注)上記の訴えが提起された日現在の規定

差止請求根拠条文

不当景品類及び不当表示防止法、消費者契約法第4条第1項第1号、消費者契約法第12条第1項、消費者契約法第12条第2項第1号、消費者契約法第12条第2項第2号

結果

 最高裁判所は、平成29年1月24日、次のとおり判断して、上告を棄却した。

当該裁判の主たる争点

ア 主たる争点
 ⅰ) 本件チラシの配布が消費者契約法(以下「法」という。)第12条第1項及び第2項にいう「勧誘」に当たるか
 ⅱ) サン・クロレラ販売(以下「被上告人」という。)が本件チラシを「現に行い現に行うおそれ」があるか

イ 主たる争点についての裁判所の判断の概要
【争点ⅰ】
(ア)原審は、法第12条第1項及び第2項にいう「勧誘」には不特定多数の消費者に向けて行う働きかけは含まれないところ、本件チラシの配布は新聞を購読する不特定多数の消費者に向けて行う働きかけであるから上記の「勧誘」に当たるとは認められないと判断して、上告人の上記各項に基づく請求を棄却した。

(イ)しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 法は、消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差に鑑み、消費者の利益の擁護を図ること等を目的として(第1条)、事業者等が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、重要事項について事実と異なることを告げるなど消費者の意思形成に不当な影響を与える一定の行為をしたことにより、消費者が誤認するなどして消費者契約の申込み又は承諾の意思表示をした場合には、当該消費者はこれを取り消すことができることとしている(第4条第1項から第3項まで、第5条)。そして、法は、消費者の被害の発生又は拡大を防止するため、事業者等が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、上記行為を現に行い又は行うおそれがあるなどの一定の要件を満たす場合には、適格消費者団体が事業者等に対し上記行為の差止め等を求めることができることとしている(第12条第1項及び第2項)。
 ところで、上記各規定にいう「勧誘」について法に定義規定は置かれていないところ、例えば、事業者が、その記載内容全体から判断して消費者が当該事業者の商品等の内容や取引条件その他これらの取引に関する事項を具体的に認識し得るような新聞広告により不特定多数の消費者に向けて働きかけを行うときは、当該働きかけが個別の消費者の意思形成に直接影響を与えることもあり得るから、事業者等が不特定多数の消費者に向けて働きかけを行う場合を上記各規定にいう「勧誘」に当たらないとしてその適用対象から一律に除外することは、上記の法の趣旨目的に照らし相当とはいい難い。
 したがって、事業者等による働きかけが不特定多数の消費者に向けられたものであったとしても、そのことから直ちにその働きかけが法第12条第1項及び第2項にいう「勧誘」に当たらないということはできないというべきである。
 以上によれば、本件チラシの配布が不特定多数の消費者に向けて行う働きかけであることを理由に法第12条第1項及び第2項にいう「勧誘」に当たるとは認められないとした原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法がある。

【争点ⅱ】
 原審の適法に確定した事実関係等によれば、本件チラシの配布について上記各項にいう「現に行い又は行うおそれがある」ということはできない。

ウ 結論
 以上から、上告人の上記各項に基づく請求を棄却した原審の判断は、結論において是認することができる。

参考資料

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判決日・事案終了日

平成29年1月24日

ステータス

終了

適格消費者団体

京都消費者契約ネットワーク

お問い合わせ先

075-211-5920

その他

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消費者庁公表資料

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この事案の経過