消費者機構日本と学校法人順天堂との間の共通義務確認訴訟に関する判決の確定について

被害回復裁判詳細

事業分類

教育,学習支援業

事業者等名

学校法人順天堂

事案の内容

(1)事案の概要
 本件は、特定適格消費者団体である特定非営利活動法人消費者機構日本(以下「原告」という。)が、順天堂大学を設置する学校法人順天堂(以下「被告」という。)に対し、平成29年度及び平成30年度における同大学の医学部の一般入学試験A 方式(以下「一般A 方式」という。)、一般入学試験B 方式(以下「一般B 方式」という。)、大学入試センター試験・一般独自併用方式(以下「センター独自併用」という。)又は大学入試センター試験利用入学試験(以下「センター利用」といい、これらの試験を総称して「本件試験」という。)において、出願者に事前に明らかにすることなく、出願者の属性(女性及び浪人生)を不利益に扱う判定基準(以下「本件判定基準」という。)を用いたことについて不法行為又は債務不履行に該当すると主張して、上記属性を有する出願者のうち、受験年の4月30日までに合格の判定を受けなかった者(以下「本件対象消費者」という。)を対象消費者として、消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律(以下「法」という。)第3条第1項第3号(※1)及び第5号(※2)の規定に基づき、法第2条第4号(※3)に規定する共通義務確認の訴えを提起した事案である(令和元年10月18日付けで東京地方裁判所に対して訴えを提起)。

(※1~3)消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律
(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一~三 〔略〕
四 共通義務確認の訴え 消費者契約に関して相当多数の消費者に生じた財産的被害について、事業者が、これらの消費者に対し、これらの消費者に共通する事実上及び法律上の原因に基づき、個々の消費者の事情によりその金銭の支払請求に理由がない場合を除いて、金銭を支払う義務を負うべきことの確認を求める訴えをいう。
五~十 〔略〕
(共通義務確認の訴え)
第三条 特定適格消費者団体は、事業者が消費者に対して負う金銭の支払義務であって、消費者契約に関する次に掲げる請求(これらに附帯する利息、損害賠償、違約金又は費用の請求を含む。)に係るものについて、共通義務確認の訴えを提起することができる。
一・二 〔略〕
三 契約上の債務の不履行による損害賠償の請求
四 〔略〕
五 不法行為に基づく損害賠償の請求(民法(明治二十九年法律第八十九号)の規定によるものに限る。)
2~4 〔略〕
注)上記の訴訟が提起された日現在の規定

差止請求根拠条文

消費者裁判手続特例法第3条第1項第3号、消費者裁判手続特例法第3条第1項第5号

結果

 東京地方裁判所は、令和3年9月17日、以下のとおり判決を言い渡した(同年10月6日、原告・被告双方が控訴せず判決確定。)。

当該裁判の主たる争点

(2)主文
「1 被告が、別紙対象消費者目録記載1から4までの対象消費者に対し、個々の消費者の事情によりその金銭の支払請求に理由がない場合を除いて、次の請求に係る金銭の支払義務を負うことを確認する。
(1) 入学検定料、送金手数料及び郵送料並びに対象消費者が特定適格消費者団体に支払うべき報酬及び費用に相当する額についての不法行為に基づく損害賠償の請求
(2) 前記(1)の請求に係る金員に対する別紙対象消費者目録記載1及び2の対象消費者については平成30年1月11日から、同目録記載3及び4の対象消費者については平成29年1月12日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の請求
2 原告のその余の請求(受験に要した旅費宿泊費に相当する額の請求に係る金銭の支払義務を負うべきことの確認を求める請求)に係る訴えを却下する。
3 〔略〕」

(3)理由
(一) 共通性の要件について
 法における共通義務確認の訴えは「消費者に共通する事実上及び法律上の原因」に基づくものである必要があるところ(法第2条第4号)、これは、個々の消費者の事業者に対する請求を基礎付ける事実関係がその主要部分において共通であり、かつ、その基本的な法的根拠が共通であることをいうものと解することが相当である。
 本件についてみると、請求を基礎付ける事実関係は、本件試験において本件判定基準が用いられる一方で、これが事前に明らかにされていなかったことのほか、本件対象消費者において本件試験に出願したこと等であり、請求を基礎付ける事実関係が主要部分において本件対象消費者に共通である。また、法的根拠も本件判定基準を事前に明らかにすべき義務に違反したことを理由とした不法行為等であって、全ての本件対象消費者に共通しているから、基本的な法的根拠が共通であるといえる。
以上によれば、本件訴えは、共通性の要件を満たすものと認められる。
(二) 支配性の要件について
 法第3条第4項は、個別の争点に対して共通争点が支配的であることを求めている。
原告が主張する各損害項目のうち、本件受験費用(入学検定料、送金手数料及び郵送料をいう。以下同じ。)と、対象消費者が特定適格消費者団体に支払うべき報酬及び費用については、その費用が定型的であり書証による審理が容易であるから、支配性に欠けるところはない。
他方で、受験に要した旅費宿泊費については、個々の消費者の個別の事情に相当程度立ち入って審理せざるを得ない面があり、書証の取調べ以外の立証方法が予定されていない簡易確定手続において、内容を適切かつ迅速に判断することは困難であるといわざるを得ない。
以上によれば、受験に要した旅費宿泊費の請求に係る金銭の支払義務を負うべきことの確認を求める部分については支配性の要件を欠くため、法第3条第4項の規定に基づき却下することとする。
(三) 本件判定基準の事前開示義務の有無について
 《1》私立大学の入学試験の採点基準等については、その性質上、試験実施機関の最終判断に委ねられるべきものであるから、採点基準の妥当性や合格・不合格の判定の当否について、当該私立大学に広範な裁量が認められているものと解される。また、入学試験の評価・判定方法等につきどのような情報を事前に開示するかも当該私立大学に一定の裁量が与えられているというべきである。
 《2》憲法第14条第1項は、性別、社会的身分により差別することを禁じており、学校教育法(昭和22年法律第26号)の規定に基づいて定められた大学設置基準(昭和31年文部省令第28号)第2条の2は、公正かつ妥当な方法により入学者を選抜する旨を定めるところ、大学入学者選抜実施要項においては、公正かつ妥当な方法による入学者の選抜を行うに当たり、年齢、性別、国籍、家庭環境等に関して多様な背景を持った学生の受入れに配慮することが求められるとともに、入学者選抜は、中立・公正に実施することを旨とし、入学者選抜の信頼性を損なう事態が生じることのないよう実施体制の充実を図ることも求められている。
 《3》出願者は、「公正かつ妥当な方法による入学者の選抜」の内容として、事前に学生募集要項等で明示されていない以上は、性別、年齢、国籍、家庭環境等の属性を基準として一律に不利益な取扱いをされることはないとの期待を有しており、同期待は単なる事実上の期待にとどまらず、出願者と大学との間の法律関係の前提となり、法的保護に値するものと認められる。
 《4》本件試験において本件判定基準を用いたことは、社会通念上相当とは認められない差別的な取扱いであり、「公正かつ妥当な方法による入学者の選抜」とは認められないと評価すべきであるから、前記《1》の被告に与えられた裁量を考慮したとしても、被告は、平成29年度及び平成30年度の本件試験の募集に際し、本件対象消費者に対し、学生募集要項等により、性別及び浪人年数を基準とした不利益な取扱いを内容とする本件判定基準を用いることを事前に明らかにすべき信義則上の義務を負っていたものというべきであり、被告が、かかる義務に違反して、事前に明らかにすることなく、本件判定基準を用いて平成29年度及び平成30年度の本件試験を実施したことは、本件対象消費者の法律上保護される利益を侵害するものとして、本件対象消費者との関係で不法行為を構成するものと認められる。
(四) 本件判定基準の事前開示義務違反により生じた損害の有無について
 《1》本件受験費用については、いずれも本件試験に出願するために必要な費用と認められるところ、本件の共通義務確認の訴えにおいて、本件受験費用相当額が損害として認められるためには、個々の消費者についての個別の事情を捨象し、本件判定基準が事前に明らかにされていれば、一般的に、本件対象消費者は本件試験に出願しなかったという関係が認められれば足りるものというべきである。
一般的に、当該大学の医学部における合格の可能性は出願者において最も重視すべき事項となるものと考えられること等を考慮すれば、本件判定基準が事前に明らかにされていれば、一般的に、本件対象消費者は本件試験に出願しなかったといえる関係があるものと認めることが相当である。
本件受験費用相当額については、個々の消費者の事情によりその支払請求に理由がない場合を除いて、本件判定基準を事前に明らかにすべき義務の違反により生じた損害であると認められる。
 《2》また、特定適格消費者団体に支払うべき報酬及び費用については、法第76条は適格消費者団体が授権者から報酬を受けることができることを定め、法第65条第4項第6号は、特定適格消費者団体が、消費者の利益の擁護の見地から不当なものでない報酬又は費用の算定方法等を定めることを特定認定の要件としていることからすると、対象消費者が特定適格消費者団体に報酬及び費用を支払うことが予定されているといえる。
そして、不法行為訴訟においては、弁護士費用(報酬)につき、不法行為と相当因果関係のある範囲で損害として認められているところ、特定適格消費者団体は、簡易確定手続を含め、手続追行を弁護士に行わせる義務を負っていること(法第77条)に照らせば、特定適格消費者団体に支払うべき報酬及び費用についても、弁護士費用と同様に、個々の消費者の事情によりその支払請求に理由がない場合を除いて、本件判定基準を事前に明らかにすべき義務の違反と相当因果関係のある範囲でその費用相当額が損害と認めるべきである。
(五) 結論
 以上によれば、本件訴えのうち受験に要した旅費宿泊費相当額の請求に係る金銭の支払義務を被告が負うべきことの確認を求める部分は、支配性を欠くことから却下し、原告のその余の請求はいずれも理由があるためこれを認容する。

参考資料

判決日・事案終了日

令和3年10月6日

ステータス

終了

特定適格消費者団体

消費者機構日本

お問い合わせ先

03-5212-3066

その他

-

消費者庁公表資料

この事案の経過