ひょうご消費者ネットと株式会社ポジティブドリームパーソンズとの間の訴訟に関する判決について

差止請求詳細

事業分類

生活関連サービス業,娯楽業

事業者等名

株式会社ポジティブドリームパーソンズ

事案の内容

本件は、適格消費者団体である特定非営利活動法人ひょうご消費者ネット(以下「原告」という。)が、結婚式場の運営等を業とする株式会社ポジティブドリームパーソンズ(以下「被告」という。)に対し、被告が不特定かつ多数の消費者との間で挙式披露宴等実施契約(以下「本件披露宴等実施契約」という。)の締結をするに際して、現に使用し又は今後使用するおそれのある、本件披露宴等実施契約の解約時に消費者が負担する解約料について定めた別紙1条項目録記載の条項(以下「本件解約料条項」という。)が消費者契約法(以下「法」という。)第9条第1項第1号及び法第10条(※1)に規定する消費者契約の条項に該当し無効であるとして、法第12条第3項に基づく差止請求として、被告が消費者との間で本件披露宴等実施契約を締結するに際し、①本件解約料条項を含む本件披露宴等実施契約の申込み又は承諾の意思表示行為の差止め、②本件解約料条項が記載された契約書ひな形が印刷された契約書用紙の廃棄、及び③被告の従業員らに対し、別紙2配布書面目録記載の内容を記載した書面の配布を求めた事案である(令和5年7月26日付けで神戸地方裁判所に対して訴訟を提起)。

(※1)消費者契約法
(消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効等)
第九条 次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。
 一 当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの 当該超える部分
 二 [略]
2 [略]
(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
第十条 消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

(注)上記の訴訟が提起された日現在の規定

差止請求根拠条文

消費者契約法第9条第1項第1号、消費者契約法第10条

結果

 神戸地方裁判所は、令和7年4月24日、以下のように判断した上で、原告の請求を棄却した(原告は、令和7年5月8日付けで大阪高等裁判所に控訴した。)。

当該裁判の主たる争点

ア 本件における主たる争点
 ⅰ)本件解約料条項が法第9条第1項第1号に該当するか
 ⅱ)本件解約料条項が法第10条に該当するか

イ 本件における争点についての裁判所の判断
【争点ⅰ)本件解約料条項が法第9条第1項第1号に該当するか】
(ア)本件披露宴等実施契約の法的性質について
 本件披露宴等実施契約は、所定の日時及び場所において飲食物を提供し、披露宴等を実施・運営することを目的とするものであることから、請負契約の性質を有する契約であり、さらに、衣装や会場の貸与といった賃貸借契約の性質や、引き出物等の購入といった役務を行うという売買契約の性質を一部有している。そうすると、本件披露宴等実施契約の性質は、単なる準委任契約ではなく、準委任、賃貸借、売買等の性質を併有する非典型契約と解するのが相当である。
(イ)逸失利益について
 契約の債務不履行に対する損害賠償の請求では、「これによって通常生ずべき損害」(民法第416条)が損害として認められ、同損害には逸失利益が含まれるといえる。法第9条第1項第1号は、契約の解除に伴う損害賠償額の予定等について消費者の不当な金銭的負担を防止するために、一定の限度を超えないよう規制するものであるところ、損害賠償の範囲について、債務不履行による解除に伴う損害賠償の場合と別異に解する理由はないから、法第9条第1項第1号は、損害賠償の範囲について、民法第416条と同様に逸失利益を含むことを前提としているものと解される。よって、平均的な損害の額には逸失利益を含むというべきである。
 原告は、披露宴等当日より1年以上前の解約においては、①本件披露宴等実施契約は計画策定段階にあり準委任契約の性質を持つこと、②ブライダル業界では、披露宴等を実施する契約の申込みが予定日の1年以内に行われる例が多いため、披露宴等当日より1年以上前の段階であれば、一定程度の割合で解約も見込まれるから、被告が具体的に履行利益を確保しうる地位にあるとはいえないこと、③被告が再販売を行うための十分な時間があることから、少なくとも披露宴等当日の1年以上前に契約が解除された場合には、平均的損害としての逸失利益は存在しない旨主張する。
 しかし、本件披露宴等実施契約の法的性質は単なる準委任契約とは解せないことから、契約締結直後から被告において具体的な役務提供を行うことが可能である。また、披露宴等当日より1年以上前であっても、消費者が同一日程で複数の事業者と披露宴等を実施する契約を締結するということは通常想定しがたく、被告において契約締結当初より消費者の解約の具体的可能性を見込むべきといえるような業界の慣行を認めるに足りる証拠はない。また、同一日程での再販売が可能であるとしても、後記のとおり再販売による利益は損益相殺により損害から控除されるのであって、もとより逸失利益自体が存しないと解することはできない。したがって、披露宴等当日より1年以上前の解約においても逸失利益は生じ得る。
 平均的な損害の額には逸失利益が含まれるところ、本件披露宴等実施契約の解約がなければ被告が得るはずであった逸失利益の額は、解除時見積額に、被告における本件披露宴等実施契約に係る粗利率を乗じて算定することが合理的である。さらに、本件披露宴等実施契約の解約との間で因果関係のある損害でなければならないから、本件披露宴等実施契約の解約後に同一の日程で第三者との契約を締結することで被告が取得する利益(再販売による利益)や、解約によって被告が負担することを免れる費用は、損益相殺により損害から控除して計算すべきである。再販売による売上額の平均が解除時見積額の平均を上回ることを認めるに足りる証拠はないから、損益相殺すべきである再販売による利益の計算は、解除時見積額に、被告における本件披露宴等実施契約に係る粗利率を乗じ、さらに再販率を乗じて算定することが合理的である。
(計算式)
 本件逸失利益-損益相殺すべき利益
 =(解除時見積額の平均×粗利率)-(解除時見積額の平均×粗利率×再販率)
 =解除時見積額の平均×粗利率×(1-再販率)
 =解除時見積額の平均×粗利率×非再販率
 被告の披露宴会場において平成30年5月1日から令和6年4月30日までの間 に実施予定であり、かつ、披露宴等当日より181日前までに消費者側から解約された案件のうち、令和2年5月1日から令和4年4月30日までの案件を除外した案件における、披露宴等1件当たりの解除時見積額の平均、粗利率、同案件についての再販率を上記計算式に当てはめると、本件解約料条項に定める解約料は、実費を含むことを踏まえても、損益相殺後の本件逸失利益の額を下回っていることが認められる。
 以上より、本件解約料は平均的な損害の額を超えるものとは認められず、本件解約料条項は法第9条第1項第1号に該当しない。

【争点ⅱ)本件解約料条項が法第10条に該当するか】
(ア)法第10条の第1要件に該当するか
 法第10条の第1要件の趣旨は、当該契約条項がなければ適用されていた「公の秩序に関しない規定」、すなわち任意規定の適用による場合に比して、消費者の権利を制限し又は義務を加重する消費者契約の条項であることを無効の要件として定めるものと解される。
 仮に本件解約料条項がなかったとしても、被告は、本件披露宴等実施契約の解約に伴って消費者に対して申込金返還債務を負う一方で、解約を理由とする消費者に対する損害賠償請求権を得るから、対当額で相殺することによって申込金相当額を得ることが可能であり、同申込金相当額の利得は法律上の原因を有するから、そもそも被告に対する不当利得請求は成立しない。
 また、本件披露宴等実施契約の法的性質は、請負契約や売買契約、賃貸借契約という複数の性質を有する複合的なものであるところ、請負契約に関する民法第641条より、注文者からの解約の場合に、注文者が賠償する義務を負う請負人に生じる損害には、履行利益、すなわち既に支出した費用と仕事の完成により取得したであろう利益が含まれる。よって、解約の場合の損害賠償額を予定する本件解約料条項が、任意規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は義務を加重するものに当たるとはいえないから、本件解約料条項は法第10条の第1要件に該当しない。
(イ)法第10条の第2要件に該当するか
 法第10条の第2要件は、「民法第1条第2項に規定する基本原則」、すなわち信義則に反して消費者の利益を一方的に害する場合に当該契約条項を無効とする旨定めているところ、当該契約条項によって消費者が受ける不利益とその条項を無効とすることによって事業者が受ける不利益を衡量して両者が均衡を失していると認められる場合を意味すると解される。
 そして、当該条項が信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであるか否かは、消費者契約法の趣旨、目的(法第1条参照)に照らし、当該条項の性質、契約が成立するに至った経緯、消費者と事業者との間に存する情報の質及び量並びに交渉力の格差その他諸般の事情を総合考量して判断されるべきである。
 ㈠ 仮に本件解約料条項がなかったとしても、消費者は被告に対する申込金の 不当利得返還請求権を行使できないから、本件解約料条項によって消費者が申込金相当額の不利益を受けるとはいえない。また、本件披露宴等実施契約の法的性質が準委任契約であるとは認められないから、委任契約に関する民法の任意規定との乖離ないし消費者と事業者との間の不均衡の程度が著しく大きいとはいえない。
 ㈡ 本件披露宴等実施契約の締結により、消費者は、契約した日時及び会場において披露宴等を実施する権利を確保でき、さらに契約締結当初から、披露宴等実施に係る物品の手配等の具体的な役務提供を受けることが可能である一方、事業者においては、契約した日時における会場の確保が義務付けられ、契約締結直後から上記具体的な役務提供を行う義務を負うこととなり、本件解約料条項が無効になると、解約者と本件披露宴等実施契約を締結することによって得られたはずの利益を得られないだけでなく、解約者に対して既に行った具体的な役務提供に対する対価も得られないという不利益が生じる。また、被告において、披露宴等当日より181日前までの解約であっても、その後に同一日程・会場での再販売がなされることがほぼ確実であるとはいえないから、再販売は上記不利益が生じることを防ぐものといえない。そして、本件披露宴等実施契約の解約の場合に被告に生じる逸失利益の額は、申込金20万円を上回るものであり、本件解約料条項が、消費者の利益を一方的に害するものとはいえない。
 ㈢ 被告には契約締結当初から、消費者の希望に応じた具体的な役務提供に伴う実費の負担が生じているところ、解約された場合に上記実費が常に別の契約に転用可能であるとはいえないから、被告における実費の負担が、既に価格に転嫁されて織り込み済みのものとはいえない。また、本件解約料条項のうち実費については、ウエディングパーティご利用規約において、「実費とは、司会、引出物、印刷費用など、手配が完了している商品等の料金」を意味する旨が明記されており被告において同規約とともに消費者に提示される見積書には、披露宴司会、演出、招待状等、引菓子、記念品といった商品又は役務の項目ごとの料金を記載しているから消費者にとって、実費の内容及び金額を把握することは容易であって、透明性の原則に反するとはいえない。
 ㈣ 利用規約説明書面によれば、被告は消費者に対し、本件披露宴等実施契約締結の際に、契約成立日から段階的に解約料が発生する旨が記載された映像を含む動画を用いて説明を行っているから、被告において、消費者との間における情報の格差等を軽減する措置を行っているものと認められる。
 ㈤ モデル約款との内容の乖離について、モデル約款は、解約料やその時期の区分等は各事業者における平均的損害の額を超えないように定めるところ、平均的損害の額は、当該業種における業界の水準ではなく、各事業者において算定するものであるから、本件解約料条項での区分と異なることをもって信義則違反の根拠とすべきではない。
 ㈥ 原告が、被告が過去に原告とは別の適格消費者団体である公益社団法人全国消費生活相談員協会からの申入れに応じて、解約日が披露宴等当日の1年以上前の場合には解約料を徴収しない取扱いをする旨の合意をした経緯があるのに同合意と異なる本件解約料条項を設定しているから、自己の従前の態度に矛盾する行動である旨主張するが、そもそも同合意の存在を裏付ける証拠はなく、仮に同合意があったとしても、訴訟外での別団体との間の合意の内容に反することが信義則違反の根拠となるとまでは認められない。
 ㈦ よって、本件解約料条項は、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するとは認められず、法第10条の第2要件に該当しない。
(ウ)結論
 以上より、本件解約料条項は、法第10条に該当しない。

参考資料

判決日・事案終了日

令和7年4月24日

ステータス

係争中

適格消費者団体

ひょうご消費者ネット

お問い合わせ先

078-361-7201

その他

-

消費者庁公表資料

この事案の経過

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