消費者機構日本と山梨県との間の訴訟に関する判決について

差止請求詳細

事業分類

学術研究,専門・技術サービス業

事業者等名

山梨県

事案の内容

本件は、適格消費者団体である特定非営利活動法人消費者機構日本(以下「原告」という。)が、山梨県(以下「被告」という。)に対し、山梨県地域枠等医師キャリア形成プログラム(以下「本件プログラム」という。)の適用に関して消費者と被告との間で交わされる誓約書(以下「本件誓約書」という。)及び契約書(以下「本件契約書」という。)において、消費者が本件プログラムの条件に違反した場合には被告に対して違約金を支払うとの条項が消費者契約法(以下「法」という。)第9条第1項第1号及び第10条(※1)に規定する消費者契約の条項に該当し無効であると主張し、被告に対して、本件誓約書の受領及び本件契約書の合意に際し、消費者が本件プログラムの条件に違反した場合には被告に対して違約金を支払うとする意思表示をすることの差止めをそれぞれ求めるとともに、その差止めに必要な措置を求めた事案である(令和5年11月21日付で甲府地方裁判所に対して訴訟を提起)。

(※1)消費者契約法
(消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効等)
第九条 次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。
 一 当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの 当該超える部分
 二 [略]
2 [略]

(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
第十条 消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

注)上記の訴訟が提起された日現在の規定

差止請求根拠条文

消費者契約法第9条第1項第1号、消費者契約法第10条

結果

甲府地方裁判所は、令和8年1月20日、以下のように判断した上で、原告の請求を認容した。

当該裁判の主たる争点

ア 本件における主たる争点
 ① 本件誓約書の法的効力
 ② 本件契約書への消費者契約法の適用可否
 ③ 本件誓約書第7項の法第9条第1項第1号及び第10条への該当性
 ④ 本件契約書第4条の法第9条第1項第1号及び第10条への該当性
 ⑤ 本件契約書第4条の中心条項該当性

イ 裁判所の判断
① 本件誓約書の法的効力について
 本件誓約書には違約金の額の記載がないことも踏まえれば、地域枠生として山梨大学医学部医学科に入学・卒業後、医師免許を取得した者(以下「地域枠医師」という。)に同違約金の支払義務を生じさせる直接の根拠は本件契約書であると考えられる。
 もっとも、本件誓約書の文言や体裁に照らせば、本件誓約書の内容自体において、地域枠志願者から被告に宛てた単なる道義的かつ一方的な誓約にとどまらず、地域枠志願者と被告の間に本件誓約書記載の事項につき法的拘束力を生じさせる合意があったものと解することは十分に可能である。また、実際の運用においても、地域枠志願者は、本件誓約書に記載のとおり入学試験に合格した場合には山梨大学医学部医学科に入学し、入学した際には山梨県医師修学資金(以下「本件修学資金」という。)貸与契約を被告と締結し、医師免許取得後に本件修学資金返済の猶予及び免除を受けるために本件契約書を締結することになるのであって、結局、本件契約書第4条の違約金支払義務を負うことになる。
 そのため、本件誓約書は、地域枠志願者に対し、医師免許取得後、被告との間で本件契約書を締結する義務を生じさせる法的効力があり、消費者契約に該当する。
② 本件契約書への消費者契約法の適用可否について
 被告は、地域枠医師は個人ではあるものの、自らが医師として医業という専門的職業に従事するに当たっての能力開発及び向上を図るために本件契約書の契約当事者となっているから、「事業として又は事業のために契約の当事者となる場合における個人」(法第2条第2項)であって消費者に該当せず、本件契約書の締結は消費者契約に該当しない旨を主張する。
 しかし、地域枠医師の勤務実態が、医療機関との間で労働契約を締結し、その指揮監督のもと医療事務に従事するというものであることや、本件修学資金の貸与を受けた時点での地域枠医師の地位は消費者に他ならず、その返済の猶予及び免除を受けるために本件契約書を締結するのも消費者としての立場に基づいていると解されることや、地域枠医師が本件契約書を締結するのは地域枠医師が医師免許を取得した直後であり、被告よりも医療界に係る情報量が少なく、交渉力も劣ることが否定できないこと等も踏まえると、本件契約書締結時点の地域枠医師を「事業として又は事業のために契約の当事者となる場合における個人」とみることはできず、事業者には当たらないと解するのが相当である。
 そのため、本件契約書は事業者である被告と消費者である地域枠医師の間で締結されるものであることから消費者契約に該当し、本件契約書には消費者契約法が適用される。
③ 本件誓約書第7項の法第9条第1項第1号及び第10条への該当性について
 本件誓約書により、地域枠志願者は医師免許取得後、本件修学資金の返済について本件契約書を締結することになり、本件契約書第4条に規定する違約金の支払義務を負うと認められる。
 本件契約書第4条の違約金支払条項は下記④のとおり、法第9条第1項第1号及び第10条に該当し無効と認められることから、地域枠志願者に対して本件契約書の締結を義務付ける本件誓約書第7項についても、法第10条に該当する。
④ 本件契約書第4条の法第9条第1項第1号及び第10条への該当性について
 (ア)法第9条第1項第1号該当性について
 本件契約書第4条は、地域枠医師に違約金の支払義務を生じさせるための要件について、本件プログラムを「満了する見込みがなくなったと認められる場合」と規定しており、その文言上は、被告による客観的な認定が要件であり、地域枠医師による解約の申入れは無関係であるかのようにも読める。
 もっとも、本件契約書第4条の趣旨に照らせば、本件プログラムを満了できなくなった場合とは、ほとんどの場合、地域枠医師が被告が指定する特定公立病院等での勤務を自ら断念し、前記病院等以外の医療機関での勤務を希望する場合であり、本件契約書第4条は、地域枠医師自身による本件契約書の解除の意思表示を当然の前提にしているとするのが合理的で自然な解釈である。そうすると、本件プログラムを「満了する見込みがなくなったと認められる場合」とは、地域枠医師が本件契約書の解除の意思表示をした場合を含んでおり、その場合に違約金の支払義務が生じることを規定した本件契約書第4条は、法第9条第1項第1号の「消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項」に該当する。
 被告は、本件契約書第4条は、その効果として、地域枠医師について本件修学資金及びその利息の即時一括返還に加え、842万4000円の違約金の支払義務が生じることを定めており、上記違約金の根拠について、地域枠医師が本件契約書を解除した場合に代替医師を確保するために山梨大学医学部に補助金を支出しなければならず、そのための費用は1人につき年750万円を下らない旨を主張する。
 もっとも、地域枠医師が特定の医療機関から県外の病院に異動した場合、直ちに代替医師の確保が必要になるのか、代替医師が必要になるとして被告が主張する医師派遣事業を利用して補助金の支出を行う方法による必要があるのか、といった点が明らかとはいえないことに加え、医療分野適正有料紹介事業者の手数料設定状況として提出された資料もインターネットサイトの情報にすぎず、被告が現実に利用した形跡もなく実際の手数料は不明である。また、他の自治体においても、本件プログラムと同様の制度が設けられているにもかかわらず、被告のようにプログラムの辞退者に対して修学資金の返還に加えて違約金の支払を課している自治体は他に存在しない。
 そのため、地域枠医師による本件契約書の解除と相当因果関係のある平均的な損害については、前記補助金支出分ないし紹介業者の手数料とされるものを考慮することはできず、むしろ、被告が地域枠医師に貸与した本件修学資金及びその利息の即時一括返還によって十分に填補され、それ以上に被告に損害が生じるものではなく、地域枠医師に842万4000円の違約金の支払義務を定める本件契約書第4条は、その全部が平均的な損害を超える違約金の定めに当たり、法第9条第1項第1号の不当条項に該当する。
 (イ)法第10条該当性について
 本件契約書第4条は、地域枠医師からの本件契約書の解約により被告に生じる平均的な損害が、被告が地域枠医師に貸与した本件修学資金及びその利息の即時一括返還によって十分に填補され、それ以上に被告に損害が生じるものではないと認められるにもかかわらず、地域枠医師に対して別途842万4000円もの違約金の支払義務を負わせるものであるから、消費者である地域枠医師に対し著しく過大な違約金を課すものであって当事者間の衡平を害するものといえ、一般的な法理の適用による場合に比して消費者の義務を加重している。
 また、本件契約書第4条は、同条に規定する違約金を支払わなければ、地域枠医師が被告指定に係る被告内の特定公立病院等以外の病院に転職することを著しく困難にするものというべきであり、地域枠医師の将来のキャリア選択の機会を大きく阻害し、その職業選択の自由や移動の自由を侵害するものである上、地域枠医師による本件契約書の締結は、医師免許を取得した直後で被告よりも医療界に係る情報量が少ない状況において、本件契約書のひな型を一方的に示されてするものであり、内容について交渉する余地もないと考えられ、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものといえる。
 そのため、本件契約書第4条の規定は、法第10条に規定する不当条項に該当する。
⑤ 本件契約書第4条の「中心条項」該当性
 被告は、本件契約書第4条は中心条項であり、消費者契約法が適用される余地がない旨主張する。
 もっとも、同条は消費者が同契約を解除した場合という契約の履行過程における調整事項を定めた条項であり、直ちに契約内容の中心事項であるとはいい難く、むしろ付随的な事項であると解される。また、かかる違約金条項について地域枠医師と被告とが市場原理に基づく対等な交渉を行うことは期待し難いことからすると、本件契約書第4条が中心条項に該当するものとはいえず、消費者契約法の適用外であると解することはできない。

ウ 結論
 原告は、被告に対し、差止めに必要な措置をとることを請求することができる。

参考資料

-

判決日・事案終了日

令和8年1月20日

ステータス

係争中

適格消費者団体

消費者機構日本

お問い合わせ先

03-5212-3066

その他

-

消費者庁公表資料

この事案の経過

この事案の経過をメールで受け取る/登録を解除する

この事案の経過情報をメールで受け取ることができます。
以下のボタンから、メール登録または解除を選択してください。