消費者支援ネットワークいしかわと合同会社金沢美術学院との間の差止請求に関する協議が調ったことについて

差止請求詳細

事業分類

教育,学習支援業

事業者等名

合同会社金沢美術学院

事案の内容

 本件は、適格消費者団体である特定非営利活動法人消費者支援ネットワークいしかわ(以下「消費者支援ネットワークいしかわ」という。)が、美術大学の受験指導を行う合同会社金沢美術学院(以下「金沢美術学院」という。)に対し、金沢美術学院の受講契約に関する下記条項(以下「本件条項」という。)が、特定商取引に関する法律(以下「特定商取引法」という。)第48条第8項及び第49条第7項に規定する特約に該当し、また、消費者契約法第9条第1号に規定する消費者契約の条項に該当し無効であるとして、本件条項を内容とする意思表示を行わないことを求めるとともに、特定商取引法及び消費者契約法に適合するように本件条項の是正を求めた事案である。

(本件条項)
① 金沢美術学院のホームページ及び要項において、一度納められた入学金・学費等は、いかなる理由があろうとも返却できない旨を定める条項
② 金沢美術学院ホームページにおいて、クーリング・オフに際して消費者に配達記録付きの書面での解約を求めるとともに、解約金11,000円及び振込手数料770円を消費者に負担させ、また、途中退塾の場合の返金に際して解約金22,000円及び振込手数料770円を差し引く旨を定める条項

(理由)
ア 令和2年11月25日の申入れ
(ア) 特定商取引法第49条第7項の該当性について
 金沢美術学院は美術大学受験に備えるための「学習塾」であり、その役務提供は「特定継続的役務」に該当し、役務の提供期間が2月を超え、役務の提供に応じて塾生が支払う金額が5万円を超える場合には、「特定継続的役務提供」(特定商取引法第41条第1項第1号、特定商取引に関する法律施行令(以下「政令」という。)第11条(令和2年5月1日施行))に該当する。
 特定商取引法は、役務受領者はクーリング・オフ期間の経過後も将来に向かって契約を解除できる法定解除権を定めており、法定解除権が行使された場合に役務提供事業者が役務受領者に対して請求できる損害賠償額の上限を定めている。上記①の条項は、契約解除の事由や時期にかかわらず、金沢美術学院が受領した入学金・学費等の返還を一律に否定するものであり、当該上限額を超えて不返還を定める部分は、特定商取引法第49条第2項(※1)に違反し、同条第7項(※2)に規定する特約に該当し、無効である。
(イ) 消費者契約法第9条第1号の該当性について
 上記①の条項は、契約解除の場合の損害賠償額の予定又は違約金を定めたものと解されるところ、契約解除の事由や時期を問わず一律に入学金・学費相当額の損害が発生する合理的理由はないため、金沢美術学院に生ずべき平均的な損害の額を超える部分については、消費者契約法第9条第1号(※3)に規定する消費者契約の条項に該当し、無効である。

(※1・2)特定商取引法
第四十九条 [略]
2 役務提供事業者は、前項の規定により特定継続的役務提供契約が解除されたときは、損害賠償額の予定又は違約金の定めがあるときにおいても、次の各号に掲げる場合に応じ当該各号に定める額にこれに対する法定利率による遅延損害金の額を加算した金額を超える額の金銭の支払を特定継続的役務の提供を受ける者に対して請求することができない。
 一 当該特定継続的役務提供契約の解除が特定継続的役務の提供開始後である場合 次の額を合算した額
  イ 提供された特定継続的役務の対価に相当する額
  ロ 当該特定継続的役務提供契約の解除によつて通常生ずる損害の額として第四十一条第二項の政令で定める役務ごとに政令で定める額
二 当該特定継続的役務提供契約の解除が特定継続的役務の提供開始前である場合 契約の締結及び履行のために通常要する費用の額として第四十一条第二項の政令で定める役務ごとに政令で定める額
3~6 [略]
7 前各項の規定に反する特約で特定継続的役務提供受領者等に不利なものは、無効とする。

(※3)消費者契約法
(消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効)
第九条 次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。
 一 当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの 当該超える部分
 二 [略]
(注)上記の差止請求が行われた日現在の規定

イ 令和6年4月11日の申入れ
 上記②の条項は、消費者のクーリング・オフの意思表示を配達記録付きの書面により行うことを要求しており、書面又は電磁的記録により解除の意思表示をすれば足りるとする特定商取引法第48条第1項(※4)に違反し、同条第8項(※5)に規定する特約に該当する。
 加えて、特定商取引法第49条第2項、政令第30条(令和6年2月1日施行)は、受講開始後であっても「2万円又は当該特定継続的役務提供契約における1か月分の授業料相当額のいずれか低い額」を超える解約金を消費者に負担させることを禁じており、金沢美術学院が解約金として22,000円を差し引くことを定める上記②の条項は、特定商取引法第49条第2項に違反し、同条第7項に規定する特約に該当する。

(※4・5)特定商取引法
(特定継続的役務提供等契約の解除等)
第四十八条 役務提供事業者又は販売業者が特定継続的役務提供等契約を締結した場合におけるその特定継続的役務提供受領者等は、第四十二条第二項又は第三項の書面を受領した日から起算して八日を経過したとき(特定継続的役務提供受領者等が、役務提供事業者若しくは販売業者が第四十四条第一項の規定に違反してこの項の規定による特定継続的役務提供等契約の解除に関する事項につき不実のことを告げる行為をしたことにより当該告げられた内容が事実であるとの誤認をし、又は役務提供事業者若しくは販売業者が同条第三項の規定に違反して威迫したことにより困惑し、これらによつて当該期間を経過するまでにこの項の規定による特定継続的役務提供等契約の解除を行わなかつた場合には、当該特定継続的役務提供受領者等が、当該役務提供事業者又は当該販売業者が主務省令で定めるところによりこの項の規定による当該特定継続的役務提供等契約の解除を行うことができる旨を記載して交付した書面を受領した日から起算して八日を経過したとき)を除き、書面又は電磁的記録によりその特定継続的役務提供等契約の解除を行うことができる。
2~7 [略]
8 前各項の規定に反する特約で特定継続的役務提供受領者等に不利なものは、無効とする。
(注)上記の差止請求が行われた日現在の規定

差止請求根拠条文

特定商取引法、消費者契約法第9条第1号

結果

 消費者支援ネットワークいしかわは、令和2年11月25日、金沢美術学院に対し、本件条項①についての申入れを開始し、更に令和6年4月11日、本件条項②についての申入れをし、金沢美術学院により申入れの趣旨に沿う対応がなされたものとして、令和7年4月21日、申入れを終了した。

当該裁判の主たる争点

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参考資料

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判決日・事案終了日

令和7年4月21日

ステータス

終了

適格消費者団体

消費者支援ネットワークいしかわ

お問い合わせ先

076-254-6733

その他

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消費者庁公表資料

この事案の経過