消費者ネットおかやまと株式会社インシップとの間の訴訟に関する判決について

差止請求詳細

事業分類

製造業

事業者等名

株式会社インシップ

事案の内容

本件は、適格消費者団体である特定非営利活動法人消費者ネットおかやま(以下「原告」という。)が、栄養補助食品製造・通信販売を行う株式会社インシップ(以下「被告」という。)に対し、「ノコギリヤシエキス」という名称のサプリメント(以下「本件サプリ」という。)に係る新聞広告(以下「本件広告」という。)の表示について、本件サプリは医薬品として承認されていないにもかかわらず、本件広告において頻尿の改善という医薬品的な効能効果を表示していることなどが、不当景品類及び不当表示防止法(以下「景表法」という。)第30条第1項第1号(※)所定の優良誤認表示に当たると主張して本件広告の表示の差止めを求めた事案である(令和2年2月19日付けで岡山地方裁判所に対して訴訟を提起)。

  (※)不当景品類及び不当表示防止法
第三十条 消費者契約法(平成十二年法律第六十一号)第二条第四項に規定する適格消費者団体(以下この条及び第四十一条において単に「適格消費者団体」という。)は、事業者が、不特定かつ多数の一般消費者に対して次の各号に掲げる行為を現に行い又は行うおそれがあるときは、当該事業者に対し、当該行為の停止若しくは予防又は当該行為が当該各号に規定する表示をしたものである旨の周知その他の当該行為の停止若しくは予防に必要な措置をとることを請求することができる。
一 商品又は役務の品質、規格その他の内容について、実際のもの又は当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると誤認される表示をすること。
二 〔略〕
2~3 〔略〕
(注)上記の訴訟が提起された日現在の規定

差止請求根拠条文

不当景品類及び不当表示防止法

結果

 岡山地方裁判所は、令和4年9月20日、以下のように判断した上で、原告の請求を棄却した。

当該裁判の主たる争点

ア 主たる争点
 本件広告の表示が優良誤認表示に当たるか

イ 主たる争点についての裁判所の判断の概要
 ㈠ 判断枠組み
 景表法第30条第1項第1号は、事業者が、「商品(中略)の内容について、実際のもの(中略)よりも著しく優良であると誤認される表示」(優良誤認表示)を行うときには、適格消費者団体において、当該事業者に対し、その停止等に必要な措置をとることを請求できる旨規定する。
  広告は、通常、ある程度の誇張を含むものであり、一般消費者もそのことを通常想定しているものと考えられるが、その誇張の程度が一般に許容される限度を超えて一般消費者に誤認を与え、その誤認により顧客が誘引される程度のものである場合には、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあるものとして、「著しく優良であると誤認される表示」に当たるものと解するのが相当である。そして、景表法の目的が、商品等の取引に関連する不当な表示等による顧客の誘引を防止するため、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれのある行為の制限及び禁止について定めることにより、一般消費者の利益を保護することにあること(景表法第1条)に鑑みれば、優良誤認表示に当たるか否かは、一般消費者が当該表示の内容全体から受ける印象や認識に基づいて判断すべきものと解される。

 ㈡ 原告主張1について
 本件広告には、①「夜中に何度も…」、「最近時間が…」、「外出が不安」、「中高年男性のスッキリしない悩みに!」との表題の下、②寝間着を着た男性が、夜に、困ったような表情で下半身を震わせながら扉のノブに手を掛けているイラストとともに「何度も…ソワソワ…」との記載や、③電車に乗った男性が、困ったような表情で下半身を震わせながら吊革に掴まっているイラストとともに「早く降りたくて…ソワソワ…」との記載があることが認められ、これらの記載全体からすれば、一般消費者において、頻尿の男性に向けられた商品であるとの印象を受けるものといえる。
 もっとも、本件広告には、具体的な人の疾病名や特定の症状、それに対する具体的な治療効果等は記載されておらず、本件サプリを服用した個人の体験談として「飲んでみたら、早めにスッキリしたので、大変うれしく思っております。」、「寒い時期も乗り切れそうです。」という抽象的な記載がされているにとどまる。加えて、上記体験談には「すべて個人の感想です。効果効能を保証するものではありません。」との脚注が付されていることのほか、本件広告には「栄養補助食品」と書かれた本件サプリのパッケージの記載や「健康食品のインシップ」との記載があり、「第1類医薬品」、「第2類医薬品」ないし「第3類医薬品」等の表示はないことに鑑みれば、本件サプリについて医薬品的な効果効能が表示され、これがあたかも国により厳格に審査され、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(以下「薬機法」という。)第14条第1項の承認を受けて製造、販売されている医薬品であるとの誤認を引き起こすおそれがあるということはできない。したがって、原告主張1は採用できない。

 ㈢ 原告主張2について
  イ 確かにノコギリヤシ製剤について、プラセボに比べて最大尿流量等に有意な差はないなどとする報告があることが認められる。
  もっとも、薬機法に基づき、国により有効性等について厳格に審査されて承認を受けている医薬品でさえ、対象者の素因や症状の程度、試験の条件、評価方法等によって、治療効果がみられないとの試験結果が出ることはあり得るものであり、効果がないとの論文が存在したり、他国では医薬品として認められていなかったりするものも存在すると考えられ、そのような場合であっても、直ちに治療効果がないものと評価することはできない。
  前記㈡で説示したとおり、本件広告は、具体的な人の疾病名や特定の症状、それに対する具体的な治療効果等は記載されておらず、医薬品的な効能効果が表示されていないどころか、個人の体験談として「早めにスッキリした」、「寒い時期も乗り切れそう」という抽象的な記載がされているにとどまるものであって、その改善効果の程度も明らかにされていない上、上記体験談の脚注として「すべて個人の感想です。効果効能を保証するものではありません。」との記載があることからすると、一般消費者において、本件サプリにより一定程度の頻尿改善効果が得られる可能性があるとの印象を生じさせるにとどまり、また個人差があることも想定できるものといえる。上記のとおり、有効性等について厳格に審査されて承認を受けた医薬品でさえ、治療効果を否定する試験結果等が存在し得るのであるから、あくまで個人差のある一定程度の頻尿改善効果の可能性を表示しているにすぎない本件広告について、同効果に否定的な研究があるからといって、このことから直ちに優良誤認表示に当たるなどということはできない。
  ノコギリヤシの頻尿改善効果を否定する論文の「考察」欄においても、先行研究となる平成13年の系統的レビューで確認された21件のノコギリヤシに関する無作為化プラセボ比較試験の中には、ノコギリヤシでは、プラセボに比べて、AUASI(概ねIPSSと同義。)の改善や最大尿流量の増加が見られたとの報告などがあり、これらの一連の試験には平均期間が13週間であることなどの方法論的限界があるものもあるが、これらの過去のエビデンスの重みはノコギリヤシが泌尿器症状と尿流量対策において軽度から中等度の改善を誘導するかもしれないことを示している旨を記載した上で、それらの先行研究と結論を異にした要因として、先行研究ではノコギリヤシとプラセボの割付けの盲検化の有効性の評価がされていないことなどについて述べられている。当該論文では、頻尿改善効果を肯定する従前の研究結果の存在を前提とした上で、自身の研究結果の方がより正当性があることを述べるものであって、結局のところ、研究方法の正当性や評価等について、見解が異なる論文が存在するにすぎない。
  かえって、ノコギリヤシの頻尿改善効果を肯定する研究報告等も相当数見られるのであるから、ノコギリヤシに、少なくとも個人差のある一定程度の頻尿改善効果が認められる可能性は否定し切れない。そうすると、本件広告が、一般消費者に、一般に許容されている限度を超えて「著しく優良」であるとの誤認を与えるものとまではいえないから、優良誤認表示に当たるということはできない。
  ロ これに対し、原告は、①研究結果は、プラセボ群がないため、適切な実験結果ではない旨、②被告の主張するメタ解析結果は、フランスのピエール・ファーブル社製のPermixonに関するものであり、被告が販売する本件サプリとは異なる旨主張する。
  しかしながら、①については、プラセボと比較した研究においても、頻尿改善効果を肯定する報告が複数あるから、原告の主張は採用できない。
  また、②については、本件サプリは、アメリカのサンブライト株式会社がパッケージングしたノコギリヤシ果実エキスを主要成分とするものであるが、その効果を評価するに当たり、これと異なる製造会社が製造したノコギリヤシのヘキサン抽出物を用いた特定製剤であるPermixonに関する研究が直ちに参考にならないものではなく、そもそも原告の指摘するノコギリヤシの頻尿改善効果を否定する報告等自体も、サンブライト株式会社がパッケージングしたノコギリヤシ果実エキスに限定した研究結果とは認められない。加えて、Permixonに限らず、他のノコギリヤシについても、頻尿改善効果を肯定する研究報告等が複数存在するのであるから、原告の主張は採用できない。

ウ 結論
 よって、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。

参考資料

-

判決日・事案終了日

令和4年9月20日

ステータス

係争中

適格消費者団体

消費者ネットおかやま

お問い合わせ先

086-230-1316

その他

-

消費者庁公表資料

この事案の経過

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