本件は、適格消費者団体である特定非営利活動法人消費者被害防止ネットワーク東海(以下「消費者被害防止ネットワーク東海」という。)が、プロジェクトリーズ株式会社(以下「プロジェクトリーズ」という。)に対し、プロジェクトリーズが運営する学習塾の入塾の手引き及び入塾要項における下記の条項(以下「本件条項」という。)が、特定商取引に関する法律(以下「特定商取引法」という。)第49条第7項(※1)に規定する特約に該当し、また、消費者契約法第9条第1項及び同法第10条(※2)に規定する消費者契約の条項に該当し無効であるとして、特定商取引法及び消費者契約法に適合するように本件条項を改めることを求めた事案である。
(本件条項)
1 「* いただいた諸費用・期間講習費用は、日割・回数割による返金はできません。
* 次のような場合、すでに納入された費用は理由の如何を問わず、返金及び別経費への振り替えをいたしませんので、あらかじめご了承ください(変更受付期限後の休塾・退塾の場合、手続き後自らの判断で授業に参加しない場合など)」と定める条項(入塾の手引き内の学費規定における条項)
2 クーリング・オフ期間経過後に塾生により中途解約がなされた場合について、プロジェクトリーズが塾生に対して、役務提供分及び2万円又は1か月分の授業料に相当する金額のいずれか低い額を超えない範囲で損害を請求できる旨を定める条項(入塾要項第10条)
3 「クーリング・オフ期間後、購入いただいたテキスト類は返金の対象とはなりません。」と定める条項(入塾の手引き内の学費規定における条項)
(理由)
1 (1)特定商取引法第49条第7項の該当性について
プロジェクトリーズが運営する学習塾は「特定継続的役務」に該当し、その役務の提供期間が2月を超え、役務の提供に応じて塾生が支払う金額が5万円を超える場合には、「特定継続的役務提供」(特定商取引法第41条第1項第1号、特定商取引に関する法律施行令(以下「政令」という。)第11条)に該当する。
役務受領者はクーリング・オフ期間の経過後も役務提供契約の期間内であれば将来に向かって契約を解除(中途解約)できるところ、上記1の条項は、学習塾の役務提供契約がその役務提供開始前に役務受領者である塾生によって解除される場合において、特定商取引法で定められた上限である「契約の締結及び履行のために通常要する費用の額」(学習塾の上限は1万1,000円)(特定商取引法第49条第2項第2号(※3)、政令第16条)を超える入会金・維持費・教材費を塾生に負担させるものであり、特定商取引法第49条第2項第2号に違反し、同条第7項に規定する特約に該当し、無効である。
また、上記1の条項は、学習塾の役務提供契約がその役務提供開始後に解除される場合において、特定商取引法で定められた上限(「提供された特定継続的役務の対価に相当する額」と「当該特定継続的役務提供契約の解除によつて通常生ずる損害の額」(学習塾の上限は2万円又は1か月分の授業料相当額のいずれか低い額)を合算した額(特定商取引法第49条第2項第1号(※4)、政令第15条))を超える部分については、特定商取引法第49条第2項第1号に違反し、同条第7項に規定する特約に該当し、無効である。
(2)消費者契約法第9条第1号の該当性について
上記1の条項は、塾生が中途解約を申し出た際に、既に納入された諸費用を一切返金しないとするものであるから、損害賠償額の予定又は違約金を定めた条項といえる。そして、上記1の条項は、解約の事由や時期等を一切考慮することなく、契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超える損害賠償の額を予定し又は違約金を定めるものであるから、消費者契約法第9条第1号に規定する消費者契約の条項に該当し、平均的損害の額を超える部分については無効である。
(3)消費者契約法第10条の該当性について
上記1の条項は、塾生からの退塾の申出又はプロジェクトリーズからの強制退塾手続による契約終了により、プロジェクトリーズの塾生に対するサービスの給付が存在し得ない場合でも、対価としての維持費・教材費を支払わなければならないと定めている。これは、民法の双務有償契約にいう給付の対価性に反し、消費者の権利を制限し又は義務を加重し、民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものであり、消費者契約法第10条に規定する消費者契約の条項に該当し、無効である。
2 上記2の条項は、塾生が中途解約を申し出た際に、プロジェクトリーズが塾生に対し、役務提供分及び2万円又は1か月分の授業料に相当する金額のいずれか低い額を超えない範囲で損害を請求できる旨を定めるものである。入塾してから授業を受ける前に退塾する場合には役務提供開始前の解除に該当するところ、この場合にも上記2の条項を適用すると、特定商取引法第49条第2項第2号に違反し、同条第7項に規定する特約に該当し、無効である。
3 塾生がプロジェクトリーズから購入したテキスト類は「関連商品」(特定商取引法第48条第2項、政令別表第5)に当たるところ、上記3の条項は、関連商品販売契約が中途解約された場合に、そのテキストが使用されたか否か、返還されたか否か、あるいは契約解除がテキストの引渡し前であるか否かといった具体的な状況を問わず、一律にテキストの売買代金の返金をしないと定めており、関連商品販売契約が解除された場合に事業者が消費者に請求し得る損害賠償額等の上限(特定商取引法第49条第6項(※5))を超え、特定商取引法第49条第6項に違反し、同条第7項に規定する特約に該当し、無効である。
(※1・3・4・5)特定商取引法
第四十九条 [略]
2 役務提供事業者は、前項の規定により特定継続的役務提供契約が解除されたときは、損害賠償額の予定又は違約金の定めがあるときにおいても、次の各号に掲げる場合に応じ当該各号に定める額にこれに対する法定利率による遅延損害金の額を加算した金額を超える額の金銭の支払を特定継続的役務の提供を受ける者に対して請求することができない。
一 当該特定継続的役務提供契約の解除が特定継続的役務の提供開始後である場合 次の額を合算した額
イ 提供された特定継続的役務の対価に相当する額
ロ 当該特定継続的役務提供契約の解除によつて通常生ずる損害の額として第四十一条第二項の政令で定める役務ごとに政令で定める額
二 当該特定継続的役務提供契約の解除が特定継続的役務の提供開始前である場合 契約の締結及び履行のために通常要する費用の額として第四十一条第二項の政令で定める役務ごとに政令で定める額
3~5 [略]
6 関連商品の販売を行つた者は、前項の規定により関連商品販売契約が解除されたときは、損害賠償額の予定又は違約金の定めがあるときにおいても、次の各号に掲げる場合に応じ当該各号に定める額にこれに対する法定利率による遅延損害金の額を加算した金額を超える額の金銭の支払を特定継続的役務提供受領者等に対して請求することができない。
一 当該関連商品が返還された場合 当該関連商品の通常の使用料に相当する額(当該関連商品の販売価格に相当する額から当該関連商品の返還されたときにおける価額を控除した額が通常の使用料に相当する額を超えるときは、その額)
二 当該関連商品が返還されない場合 当該関連商品の販売価格に相当する額
三 当該契約の解除が当該関連商品の引渡し前である場合 契約の締結及び履行のために通常要する費用の額
7 前各項の規定に反する特約で特定継続的役務提供受領者等に不利なものは、無効とする。
(※2)消費者契約法
(消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効)
第九条 次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。
一 当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの 当該超える部分
二 [略]
(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
第十条 消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。
注)上記の差止請求が行われた日現在の規定