全国消費生活相談員協会と東急不動産株式会社の控訴審判決の確定について

差止請求詳細

事業分類

不動産業,物品賃貸業

事業者等名

東急不動産株式会社

事案の内容

 本件は、適格消費者団体である公益社団法人全国消費生活相談員協会(以下「控訴人」という。)が、複数の有料老人ホームを経営する東急不動産株式会社(以下「被控訴人」という。)に対し、被控訴人が入居者との間で一括払方式の入居契約(以下「本件入居契約」という。)を締結する際に使用している契約書(以下「本件契約書」という。)について、前払金を徴収し、その一部を居住期間にかかわらず返還しないこととしている契約条項(以下「本件不返還条項」という。)は、消費者の利益を一方的に害するもので消費者契約法(以下「法」という。)第10条の規定により無効であるにもかかわらず、被控訴人は本件不返還条項を含む消費者契約の申込み又は承諾の意思表示を現に行い又は行うおそれがあるとして、法第12条第3項本文の規定に基づき、当該行為の停止等を求めた事案である。
 原判決(東京地方裁判所が平成29年4月25日に言渡し)(※)が、本件不返還条項は法第10条に違反するとは認められないとして、控訴人の請求を全て棄却したところ、控訴人がこれを不服として控訴した(平成29年5月8日付けで東京高等裁判所に控訴)。

差止請求根拠条文

消費者契約法第10条

結果

 控訴審(東京高等裁判所)は、平成 30 年3月 28 日、以下のように判断した上で、控訴人の控訴を棄却した(控訴人は、平成 30 年4月9日付けで上告及び上告受理申立てを行った。)。
 平成30年12月14日、最高裁判所が上告を棄却し、上告受理申立ては上告審として受理しないとの決定をしたために、差止請求を棄却した控訴審判決が確定した。

当該裁判の主たる争点

ア 主たる争点
 本件不返還条項が法第10条に該当するか否か。
イ 主たる争点についての裁判所の判断
① 本件不返還条項が法第10条前段に該当するか否か
㈠ 本件不返還条項は、控訴人の主張する想定居住期間内の家賃相当額の一部を不返還とするものであるか否か
  本件契約書においては、前払金は「想定居住期間内の家賃相当額」と「想定居住期間を超えて契約が継続する場合に備えて事業者が受領する額」(以下「超過期間のための受領金」という。)であること、超過期間のための受領金は短期解約特例(入居日から3か月が経過する日まで)又は入居日前の解約等による契約終了の場合を除き返還しないことを明記しているのであるから、本件不返還条項が不返還とするものは、超過期間のための受領金であることは明らかであり、本件不返還条項は、超過期間のための受領金の不返還を定めるものと解することができるから控訴人の上記主張は採用できない。
㈡ 本件不返還条項は、控訴人の主張する賃貸借契約における一般的法理等又は民法の賃貸借契約に関する規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は義務を加重する条項であるか否か
 本件不返還条項を含む本件入居契約は、有料老人ホームの施設の入居・利用と継続的かつ複合的なサービス等を提供する契約であり、住居の提供・確保とサービス等の提供が不可分一体となっているものであることは明らかである。したがって、本件入居契約は、賃貸借の要素は含むものの、複合的な非典型契約であって、賃貸借契約そのものではないということができるから、本件契約書において建物賃貸借契約上賃借人が負うべき負担以外の負担を課す条項が含まれていても、そのことから直ちに建物賃借人である消費者の権利を制限し又は義務を加重するもので法第10条前段に該当するということはできない。
 そして、超過期間のための受領金は、入居者が、将来、想定居住期間を超えて居住する場合の費用を相互扶助の観点から前払方式を選択した入居者全員で分担するものであり、想定居住期間を超えた場合に、追加出資を求められることなく居住を継続することができるという自らの利益を得るための費用ということができるから、対価性がないということはできないのであって、上記のとおり複合的な性質を有する本件入居契約において、入居者が上記の対価性を有する金員の負担をすることとしても、賃貸借契約における一般的法理等又は民法の賃貸借契約に関する規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は義務を加重するということはできない。
 したがって、控訴人の上記主張は採用できない。
㈢ 本件不返還条項を含む本件入居契約は、控訴人の主張する保険契約(想定居住期間経過後の生存については生命保険の一種の生存保険、居住については損害保険)に該当又は類似し、保険法の規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は義務を加重する条項であるか否か
 保険契約とは、保険契約、共済契約その他いかなる名称であるかを問わず、当事者の一方が一定の事由が生じたことを条件として財産上の給付を行うことを約し、相手方がこれに対して当該一定の事由の発生の可能性に応じたものとして保険料を支払うことを約する契約である(保険法第2条第1号)。
 本件入居契約において、入居者は、想定居住期間を超えた場合に追加出資を求められることなく居住を継続することができるという利益を得るための費用として超過期間のための受領金を支払い、その結果、想定居住期間を超えて居住する場合は追加出資を求められることなく居住を継続することができるというだけのことであって、被控訴人が想定居住期間を超えて契約が継続するという事由(生存+居住)が生じたことを条件として財産上の給付を行うことを約しているわけではないし、入居者もそれに対して保険料を支払っているわけでもないから、本件不返還条項を含む本件入居契約と保険契約とは異なる性質のものである。
 また、生命保険契約において財産上の給付は金銭の支払に限られる(保険法第2条第1号)ところ、本件入居契約においては、入居者が想定居住期間を超えて居住した場合に金銭が支払われるわけではないから、本件入居契約ないし本件不返還条項が生命保険契約に当たると認めることはできないし、損害保険契約は、保険契約のうち、保険者が一定の偶然の事故によって生ずることのある損害をてん補することを約するものをいう(同条第6号)が、入居者は想定居住期間を超えて居住したとしても損害を受けるわけではないから、本件入居契約ないし本件不返還条項が損害保険契約に当たると認めることもできない。
 したがって、控訴人の上記主張は、本件不返還条項と比較する基礎を欠くというべきで、法10条前段該当性の主張として失当であり、本件不返還条項が保険法の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は義務を加重するものであるとは認められないから、控訴人の上記主張は採用することができない。

② 本件不返還条項が法第10条後段に該当するか否か
㈠ 本件不返還条項及び前払金の算定方法に合理性があるか否か
 控訴人は、本件不返還条項は、「借主の想定居住月数に応じた賃料総額」の一部を不返還とするものであるから、何ら根拠(対価性)もなく前払金を不返還とするものであり、それ自体不当であると主張する。
 しかしながら、この主張は、本件不返還条項が想定居住期間内の家賃相当額の一部を不返還とするものであることを前提にするものと解されるが、①㈠のとおり、本件不返還条項は想定居住期間内の家賃相当額の一部を不返還とするものではないから、控訴人の上記主張は採用することができない。
 また、控訴人は、老人福祉法施行規則(昭和38年厚生省令第28号)の改正(平成24年1月30日公布、同年4月1日施行)に伴う「有料老人ホームの設置運営標準指導指針について」(平成14年7月18日老発第0718003号厚生労働省老健局長通知。以下「本件指針」という。)の平成24年3月16日改正により、同日に同局高齢者支援課が発出した「有料老人ホームにおける家賃等の前払金の算定の基礎及び返還債務の金額の算定方法の明示について」と題する事務連絡(以下「本件事務連絡」という。)の算定方法は、入居者の途中退去及びその後の再販売のことを考慮していないから、仮に本件不返還条項が本件事務連絡の算定方法にのっとっているとしても被控訴人に不当な利益が生じることになると主張する。
 しかしながら、前払金の算定において入居契約の解除・解約及びその後の再販売といった事情を厳密に反映することには困難が伴うということができるから、本件事務連絡の前払金の算定方法が上記事情を考慮していないとしても、そのことから直ちに本件事務連絡の前払金の算定方法が不当であるということはできない。したがって、事業者がそれに倣って不返還条項を定めたとしても、当該事業者に不当な利益が生じることになるということはできない。
 さらに、控訴人は、本件不返還条項は本件事務連絡の算定方法にのっとっておらず、本件事務連絡が許容する「想定居住期間を超えて契約が継続する場合に備えて有料老人ホーム設置者が受領する額」を超えて過大な金額を不返還とするものであると主張する。
 しかしながら、本件事務連絡は、厚生労働省老健局高齢者支援課が都道府県、政令指定都市及び中核市の民生主管部(局)宛てに、有料老人ホームの設置者に対する指導に際して参考とするように家賃等の前払金の算定の基礎及び返還債務の金額の算定方法を入居契約に明示する際の考え方及び例を示したにすぎないのであるから、本件不返還条項の計算方法が本件事務連絡の算定方法と完全に一致しないからといって、直ちに本件不返還条項の計算方法が不合理であるということはできない。
㈡ 本件不返還条項は、控訴人の主張する被控訴人と入居者の利害が対立する関係を生じさせ、被控訴人において恣意的に入居者の早期退去を促進する状況を作出する事態を誘発する危険を内在するものであるか否か
  控訴人は、本件不返還条項の下では、入居者が想定居住期間を超えて居住し続ければ、入居者は追加家賃を支払うことなく居住でき、他方、被控訴人は、その負担を負うこととなるところ、被控訴人は、入居者の入居環境を左右し、「想定居住期間経過後の居住」という事由の不発生に向けた影響を与え得る立場にあり、本件不返還条項は、そのような被控訴人と入居者の利害が対立する関係を生じさせ、被控訴人において恣意的に入居者の早期退去を促進する状況を作出する事態を誘発する危険を内在する不当なものであると主張する。
 しかしながら、被控訴人は、入居者との入居契約により、適切に老人ホームにおけるサービスを提供する義務を負っているのであり、上記状況から直ちに控訴人が主張する危険が誘発されるということはできないから、控訴人の上記主張は採用することができない。
㈢ 本件不返還条項は、控訴人の主張する入居者の居住・移転の自由を不合理に制限するものか否か
 入居者は、30日前までに書面で申入れを行うことで、本件入居契約を解約することができ、また、入居日から3か月が経過する日までに解約した場合には、入居日から契約終了日までの家賃等の額を除いて前払金は全額返還され、それ以降も前払金の一部は不返還とされるものの、その不利益を甘受することにより本件入居契約を解約することは可能であるし、そもそも入居希望者は月払方式を選択することもできるのであるから、本件不返還条項が入居者の居住・移転の自由を制限するものであるということはできない。
 したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
㈣ 入居希望者が前払方式の入居契約を選択した場合において、控訴人の主張する本件不返還条項の合意をしない自由が無いのか否か
 控訴人は、本件不返還条項はそれと類似した構造を持つ生存保険契約と比べて射幸性が極めて高い上、入居時の前払方式とセットになっているため、これを選択すると本件不返還条項が不可避的に付帯してくるので、入居者が前払方式を選択する以上本件不返還条項の合意をしない自由はなく、しかも、その合意が意識されにくい形で付帯してくるから、高齢者はそのリスク(不利益)を意識しにくい形で人生最後の段階で極めて射幸性が高い高額取引をさせられてしまうことになると主張する。
 しかしながら、本件不返還条項と生存保険契約とは異なる性質のものであり、これを対比して本件不返還条項の射幸性を論ずることではないから、控訴人の上記主張はその前提を欠いている。
 また、少なくとも入居希望者には前払方式のほかに月払方式という選択肢があること自体は本件不返還条項の不当性の判断に当たって考慮されてしかるべきであり、被控訴人が入居希望者との間で前払方式の入居契約を締結するに当たり、入居希望者に対して前払金の一部が返還されない場合があること及びその趣旨について入居希望者が十分に理解できるよう適切かつ十分な説明をすることが求められるとしても(被控訴人がこれらにつき十分な説明を行っていないとは認められない。)、入居希望者に選択の自由が存しないとまでいうことはできない。
 したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
㈤ 本件入居契約は、控訴人の主張する十分にリスクを理解できないという危険性をもった契約であるか否か
 控訴人は、高齢者には認知症ないし軽度認知障害の人が相当程度占めるところ、本件契約書及び本件重要事項説明書の分量が多く、その記載も大変分かりにくく、このような本件契約書等の記載やそれに基づく説明で高齢者が前払方式を選択すると既存の保険ではあり得ないような著しく射幸性の高い合意が付帯してくることを十分に理解できるとは考えられないから、本件入居契約は十分にリスクを理解できない危険性をもった契約であると主張する。
 しかしながら、本件不返還条項は著しく射幸性が高いという控訴人の主張を採用することができないことは、㈣のとおりである。また、前払金に関することは重要な事項であることから、本件契約書においては、前払金のことがその不返還部分の説明とともに表題部及び別表第5に記載され、本件重要事項説明書においても、本文及び別紙1に記載され、また、被控訴人は、入居希望者に対し前払金総額及び不返還部分の額を示した書面を交付した上、入居希望者が入居時及び入居後に支払う必要のある費用及び前払方式を選択する場合に返還されない部分があることについて説明を行い、入居希望者の身元引受人に対しても十分説明している旨主張するところ、被控訴人が入居希望者及び身元引受人に対し十分な説明をしていないことをうかがわせる証拠はない。
 したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
㈥ 本件不返還条項は、控訴人の主張する老人福祉法第29条第6項を潜脱するものか否か
 控訴人は、有料老人ホームにおける入居一時金の一部の初期償却に関してトラブルが多発し、内閣府消費者委員会が初期償却について抜本的な解決を求めたことを受けて老人福祉法が改正され、同法第29条第6項が新設されたものであるところ、本件指針及び本件事務連絡が示す「想定居住期間を超えて契約が継続する場合に備えて有料老人ホームの設置者が受領する額」というのは上記改正後も不返還条項を維持するためのつじつま合わせにすぎず、その実質は権利の対価であって、それを受領することは同項に違反するから、本件不返還条項は同項を潜脱するものであると主張する。
 しかしながら、老人福祉法第29条第6項が新設された際、内閣府消費者委員会において初期償却の問題が議論されたものの、初期償却の法的位置付けについては様々な意見があり、十分な検討を要するとして建議の対象とされなかったことが認められるところである。そして、老人福祉法施行規則第21条第2項第2号において、契約の終了時期に応じて前払金の返還範囲が別に規定されていることに照らしても(入居期間にかかわらず、既に居住した期間に係る家賃等以外の前払金を全て返還するものとすれば、上記のように契約の終了時期に応じて規定を分ける必要性は存しないということができる。)、老人福祉法第29条第6項が前払金の一部についておよそ返還しないことを禁止する趣旨であるとまで解することはできない。
 そして、超過期間のための受領金は、自らが将来、想定居住期間を超えて居住する利益の対価たる性質を有するものであるところ、その利益は将来のものであるとしても、その内容は老人ホームにおける居住という利益であることに変わりはないから、これの対価は、同項が掲げる「日常生活上必要な便宜の供与の対価」に含まれると解するのが相当である。
 したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。

③ 結論
 以上によれば、本件不返還条項が法第10条に該当するとは認められない。

参考資料

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判決日・事案終了日

平成30年12月14日

ステータス

終了

適格消費者団体

全国消費生活相談員協会

お問い合わせ先

03-5614-0543

その他

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消費者庁公表資料

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この事案の経過