消費者機構日本と合同会社LeyLineGroupとの間の訴訟に関する判決について

差止請求詳細

事業分類

学術研究,専門・技術サービス業

事業者等名

合同会社LeyLineGroup

事案の内容

 本件は、適格消費者団体である特定非営利活動法人消費者機構日本(以下「原告」という。)が、芸能タレントのマネジメント業務等を業とする合同会社LeyLineGroup(以下「被告」という。)に対し、被告が不特定かつ多数の者に対してレッスン及び出演業務等を提供する旨の専属演者契約(以下「本件契約」という。)に関し、下記①から④までの事項を求めた事案である(令和6年7月18日付けで東京地方裁判所に対して訴訟を提起)。

① 特定商取引に関する法律(以下「特定商取引法」という。)第58条の18第1項第1号イ(※1)又は消費者契約法第12条第1項に基づき、契約について締結を勧誘するに際しての不実告知の停止及びこれを周知徹底させる措置の採用(以下「請求①」という。)。
② 特定商取引法第58条の18第2項第1号に基づき、特定商取引法第9条第1項(※2)所定の申込みの撤回等(以下「クーリングオフ」という。)を否定する条項に係る意思表示の停止及び契約書等の破棄並びにこれらを周知徹底させる措置の採用(以下「請求②」という。)。
③ 消費者契約法第12条第3項に基づき、積立金の放棄についての条項に係る意思表示の停止及び契約書等の破棄並びにこれらを周知徹底させる措置の採用(以下「請求③」という。)。
④ 特定商取引法第58条の18第2項第2号又は消費者契約法第12条第3項に基づき、保証金及び入会金の不返還についての条項に係る意思表示の停止及び契約書等の破棄並びにこれらを周知徹底させる措置の採用(以下「請求④」という。)。

【請求原因の概要】
(ⅰ)請求①の請求原因(以下「請求原因①」という。)
ア 本件契約の訪問販売該当性
 被告は、インターネット上で告知した特定のオーディションに申し込んだ消費者に対し、電磁的方法により、本件契約の締結について勧誘をするためのものであることを告げずに被告の営業所への来訪を要請し、その者と本件契約を締結している。
 したがって、本件契約は、「訪問販売」(特定商取引法第2条第1項第2号、特定商取引法施行令第1条第1号)に該当する。
イ 被告による不特定かつ多数の者に対する不実告知
 (ア) 被告は、被告の営業所に来訪した不特定かつ多数の者に対し、オーディションに合格するには実績不足である、被告と本件契約を締結すれば、実績をつけるための仕事を回すことができると告知しているが、実際には、本件契約を締結した者に対して仕事を回していない。
よって、不特定かつ多数の者に対し、本件契約の締結について勧誘をするに際し、本件契約の「役務」の「内容」について不実告知(特定商取引法第58条の18第1項第1号イ)を現に行っている。
 (イ) オーディション合格に向けた実績をつけるための仕事を回されなければ消費者が本件契約締結には至ることはないと考えられるため、実績をつけるための仕事を回すことができる旨の被告の告知内容は、「消費者の当該消費者契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべき」「役務」の「内容」という「重要事項」(消費者契約法第4条第5項第1号)に該当する。 
 よって、被告は、不特定かつ多数の消費者に対し、本件契約の締結について勧誘をするに際し、「重要事項」について不実告知(消費者契約法第4条第1項第1号(※3))を現に行っている。

(ⅱ)請求②の請求原因(以下「請求原因②」という。)
 被告は、不特定かつ多数の者と本件契約を締結するに際し、「専属演者契約書」(以下「本契約書」という。)を現に使用しているところ、本件契約第13条第1項第7号には「クーリングオフは出来かねます。」と規定する。
 上記のとおり、本件契約に基づく役務の提供は、「訪問販売」に該当するところ、訪問販売における契約の申込者等にはクーリングオフの権利が認められており(特定商取引法第9条第1項)、本件契約第13条第1項第7号の規定は、かかる特定商取引法第9条第1項の規定に反する「特約」(特定商取引法第9条第8項(※4))に該当する。

(ⅲ)請求③の請求原因(以下「請求原因③」という。)
ア 被告は、不特定かつ多数の消費者と本件契約を締結するに際し、本契約書を現に使用しているところ、本件契約第5条第3項第1文において、消費者は、被告に対し、保証金として合計54万円(税別)を支払う義務があるとされ、同項第3文において、保証金は、本件契約満期での解除時に支給される積立金の原資とされている。そして、同条第2項は、消費者に対し、被告が消費者宛てに契約の更新意思の確認メールを送信してから1週間以内に書面にて契約更新か解除の手続を行うことを要求し(以上の内容について、以下「前段」という。)、同手続をとることが困難な場合は、被告に対して速やかに連絡を行うことを求め、その連絡をすることなく同手続を遅滞した場合は、自動的に本件契約が満了し、消費者が積立金の受取を放棄したとみなす(以上の内容について、以下「後段」という。)と規定する。
イ 消費者契約法第10条前段要件該当性
 法令中の公の秩序に関しない規定である民法第519条の適用による場合、債権者が債務者に対して債務を免除する意思を表示したときにその債権が消滅するとされ、債権者の任意の意思表示なくして債権が消滅することはない。それにもかかわらず、本件契約第5条第2項後段は、消費者の意思表示なくして、消費者が積立金の受取を放棄したとみなす(換言すれば、被告の積立金返還義務が消滅する)と規定している。よって、本件契約第5条第2項後段の規定は、法令中の公の秩序に関しない規定の適用である民法第519条の適用による場合に比して、消費者の権利である積立金返還請求権を制限する消費者契約の条項であることは明らかであり、消費者契約法第10条(※5)前段に該当する。
ウ 消費者契約法第10条後段要件該当性
 本件契約第5条第2項後段の規定は、本件契約の相手方である消費者が被告に対し、所定の連絡をすることなく契約更新又は解除の手続を遅滞した場合、積立金の受取を放棄したとみなすとしているが、積立金の額は54万円(税別)と極めて高額であることなどから、同規定が消費者の利益を害する重大な効果を及ぼすものであることは明らかである。
 これに対し、同規定は、消費者が所定の連絡をすることなく上記手続を遅滞した場合、自動的に本件契約が満了すると規定し、その場合、本件契約は当初より予定された契約期間どおりに終了することで確定するのであるから、被告において手続の煩雑さ等は全くなく、消費者の上記手続遅滞によって被告が被る不利益はないといえる。したがって、本件契約第5条第2項後段の規定は、民法第1条第2項に規定する基本原則たる信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであることは明らかであり、消費者契約法第10条後段に該当する。
エ 以上より、本件契約第5条第2項後段の規定は、消費者契約法第10条に規定する消費者契約の条項に該当する。

(ⅳ)請求④の請求原因(以下「請求原因④」という。)
ア 解除に伴う損害賠償額を予定し、又は違約金を定める条項に該当すること
 被告は、不特定かつ多数の者と本件契約を締結するに際し、本契約書を現に使用しているところ、本件契約第5条第3項第5文は、契約満了時以外での保証金の返金はできないと定め、同条第4項第1文は、契約満了に達せず契約解除した場合、積立金は支給されないと規定する。
 本件契約における保証金は、消費者の被告に対する一切の債務を担保したものと解されるところ、上記条項は、契約期間の中途で本件契約が解除された場合、消費者の被告に対する損害賠償額を保証金と同額であるとして、保証金を原資とする積立金を支給しないと定めたものといえるから、同規定は、本件契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項に該当する。
イ 特定商取引法第10条第1項に反する特約であること
 本件契約に基づく役務の提供は「訪問販売」に該当するところ、特定商取引法第10条第1項は、訪問販売における契約の解除等に伴う損害賠償等の額について、①役務提供契約の解除が当該役務提供の開始後である場合には、提供された当該役務の対価に相当する額及びこれに対する法定利率による遅延損害金の額を加算した金額を超える額の支払を請求することができず、②契約の解除が当該役務提供の開始前である場合には、契約の締結及び履行のために通常要する費用の額及びこれに対する法定利率による遅延損害金の額を加算した金額を超える額の支払を請求することができないと規定する。したがって、本件契約が契約期間の中途で解除された場合、被告は消費者に対して、上記①又は②に定める額を超えて損害賠償又は違約金を請求することはできない。
 本件契約第5条第3項第5文及び同条第4項第1文は、上記①又は②の制限を大幅に上回る解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項に該当するものであるから、特定商取引法第10条第1項第3号及び第4号(※6)の規定に反する特約であるといえる。
ウ 消費者契約法第9条第1項第1号に規定する契約条項に該当すること
本件契約第5条第3項第5文及び同条第4項第1文の規定は、解除の事由、時期等の区分を一切設けることなく、一律に、契約期間の中途で本件契約が解除された場合、消費者の被告に対する損害賠償額を保証金と同額であるとしていることから、その額には、解除の事由、時期等の区分に応じて、解除に伴い被告に生ずべき平均的な損害の額を超える部分が含まれていることは明らかである。
 したがって、本件契約第5条第3項第5文及び同条第4項第1文は、被告に生ずべき平均的な損害を超える部分を含む規定であるから、消費者契約法第9条第1項第1号(※7)に規定する消費者契約の条項に該当する。

(※1・2・4・6)特定商取引法
(訪問販売における契約の申込みの撤回等)
第九条 販売業者若しくは役務提供事業者が営業所等以外の場所において商品若しくは特定権利若しくは役務につき売買契約若しくは役務提供契約の申込みを受けた場合若しくは販売業者若しくは役務提供事業者が営業所等において特定顧客から商品若しくは特定権利若しくは役務につき売買契約若しくは役務提供契約の申込みを受けた場合におけるその申込みをした者又は販売業者若しくは役務提供事業者が営業所等以外の場所において商品若しくは特定権利若しくは役務につき売買契約若しくは役務提供契約を締結した場合(営業所等において申込みを受け、営業所等以外の場所において売買契約又は役務提供契約を締結した場合を除く。)若しくは販売業者若しくは役務提供事業者が営業所等において特定顧客と商品若しくは特定権利若しくは役務につき売買契約若しくは役務提供契約を締結した場合におけるその購入者若しくは役務の提供を受ける者(以下この条から第九条の三までにおいて「申込者等」という。)は、書面又は電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)によりその売買契約若しくは役務提供契約の申込みの撤回又はその売買契約若しくは役務提供契約の解除(以下この条において「申込みの撤回等」という。)を行うことができる。ただし、申込者等が第五条第一項又は第二項の書面を受領した日(その日前に第四条第一項の書面を受領した場合にあつては、その書面を受領した日)から起算して八日を経過した場合(申込者等が、販売業者若しくは役務提供事業者が第六条第一項の規定に違反して申込みの撤回等に関する事項につき不実のことを告げる行為をしたことにより当該告げられた内容が事実であるとの誤認をし、又は販売業者若しくは役務提供事業者が同条第三項の規定に違反して威迫したことにより困惑し、これらによつて当該期間を経過するまでに申込みの撤回等を行わなかつた場合には、当該申込者等が、当該販売業者又は当該役務提供事業者が主務省令で定めるところにより当該売買契約又は当該役務提供契約の申込みの撤回等を行うことができる旨を記載して交付した書面を受領した日から起算して八日を経過した場合)においては、この限りでない。
2~7 [略]
8 前各項の規定に反する特約で申込者等に不利なものは、無効とする。

(訪問販売における契約の解除等に伴う損害賠償等の額の制限)
第十条 販売業者又は役務提供事業者は、第五条第一項各号のいずれかに該当する売買契約又は役務提供契約の締結をした場合において、その売買契約又はその役務提供契約が解除されたときは、損害賠償額の予定又は違約金の定めがあるときにおいても、次の各号に掲げる場合に応じ当該各号に定める額にこれに対する法定利率による遅延損害金の額を加算した金額を超える額の金銭の支払を購入者又は役務の提供を受ける者に対して請求することができない。
 一・二 [略]
 三 当該役務提供契約の解除が当該役務の提供の開始後である場合 提供された当該役務の対価に相当する額
 四 当該契約の解除が当該商品の引渡し若しくは当該権利の移転又は当該役務の提供の開始前である場合 契約の締結及び履行のために通常要する費用の額
2 [略]

(訪問販売に係る差止請求権)
第五十八条の十八 消費者契約法(平成十二年法律第六十一号)第二条第四項に規定する適格消費者団体(以下この章において単に「適格消費者団体」という。)は、販売業者又は役務提供事業者が、訪問販売に関し、不特定かつ多数の者に対して次に掲げる行為を現に行い又は行うおそれがあるときは、その販売業者又は役務提供事業者に対し、当該行為の停止若しくは予防又は当該行為に供した物の廃棄若しくは除去その他の当該行為の停止若しくは予防に必要な措置をとることを請求することができる。
 一 売買契約若しくは役務提供契約の締結について勧誘をするに際し、又は売買契約若しくは役務提供契約の申込みの撤回若しくは解除を妨げるため、次に掲げる事項につき、不実のことを告げる行為
  イ 商品の種類及びその性能若しくは品質又は権利若しくは役務の種類及びこれらの内容
  ロ・ハ [略]
 二・三 [略]
2 [略]

(※3・5・7)消費者契約法
(消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消し)
第四条 消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次の各号に掲げる行為をしたことにより当該各号に定める誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。
 一 重要事項について事実と異なることを告げること。 当該告げられた内容が事実であるとの誤認
 二 [略]
2~4 [略]
5 第一項第一号及び第二項の「重要事項」とは、消費者契約に係る次に掲げる事項(同項の場合にあっては、第三号に掲げるものを除く。)をいう。
 一 物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの質、用途その他の内容であって、消費者の当該消費者契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきもの
 二・三 [略]
6 [略]

(消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効等)
第九条 次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。
 一 当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの 当該超える部分
 二 [略]
2 [略]

(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
第十条 消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

(注)上記の訴訟が提起された日現在の規定

差止請求根拠条文

特定商取引法、消費者契約法第4条第1項第1号、消費者契約法第9条第1項第1号、消費者契約法第10条

結果

 東京地方裁判所は、令和7年2月26日、以下のように判断した上で、原告の請求を認容した(本判決は既に確定している。)。

当該裁判の主たる争点

ア.請求原因事実について
 請求原因①から④までの各事実は、いずれも認めることができる。

イ.差止請求の可否
【請求①について】
 請求原因①の事実によれば、被告が、不特定かつ多数の消費者に対し、本件契約の締結について勧誘するに際し、訪問販売かつ重要事項である本件契約に基づく役務の内容について不実の告知を現に行い又はこれを行うおそれがあるものと認められる。
 したがって、請求①には理由がある。

【請求②について】
 請求原因②の事実によれば、被告が現に使用し又は使用するおそれがある本件契約第13条第1項第7号の規定が、訪問販売における契約の申込者等にクーリングオフの権利を認める特定商取引法第9条第1項に反する特約(同条第8項)に該当すると認められる。
 したがって、請求②には理由がある。

【請求③について】
 請求原因③の事実によれば、被告が現に使用し又は使用するおそれがある本件契約第5条第2項後段の規定は、民法第519条の適用による場合に比して、消費者の権利である積立金返還請求権を制限し、かつ、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するから、消費者契約法第10条に規定する消費者契約の条項に該当すると認められる。
 したがって、請求③には理由がある。

【請求④について】
 請求原因④の事実によれば、被告が現に使用し又は使用するおそれがある本件契約第5条第3項第5文及び同条第4項第1文は、特定商取引法第10条第1項第3号及び第4号による制限を上回る損害賠償額の予定又は違約金の定めに当たるから、同条に反する特約に該当する。また、上記の定めは、解除の事由、時期等の区分を一切設けることなく、一律に、契約期間の中途で本件契約が解除された場合、消費者の被告に対する損害賠償額を保証金額であるとするものであって、被告に生ずべき平均的な損害を超える部分を含む規定であるから、消費者契約法第9条第1項第1号に規定する消費者契約の条項に該当すると認められる。
 したがって、請求④には理由がある。

ウ.結論
 よって、原告の請求はいずれも理由があるからこれらを認容する。

参考資料

-

判決日・事案終了日

令和7年2月26日

ステータス

終了

適格消費者団体

消費者機構日本

お問い合わせ先

03-5212-3066

その他

-

消費者庁公表資料

この事案の経過