本件は、適格消費者団体である特定非営利活動法人消費者機構日本(以下「消費者機構日本」という。)が、株式会社ALPACA(以下「ALPACA」という。)に対し、ALPACAが運営するウェブサイトの利用規約のうち下記条項(以下「本件条項」という。)について、消費者契約法第8条第1項各号、第8条の2、第9条第1項第1号及び第10条(※1)に規定する消費者契約の条項に該当し無効であるとして、削除又は変更を求めた事案である。
(本件条項)
① ALPACAに起因する商品の不具合及び申込みと異なる商品の提供の場合に商品の交換のみを認める(消費者の契約解除を認めない)旨を定める条項
② 申込みと異なる商品が届いた場合の交換対応について、商品到達後7日以内に消費者がカスタマーセンターに連絡しない限り、商品の交換に応じない旨を定める条項
③ ALPACAの承諾を得ることなく商品が返品された場合、注文・返品取消不可についての説明にもかかわらず同意しなかった場合等について、キャンセル料を一律1商品につき3万円と定める条項
④ ALPACAの運営するウェブサイト上のサービスの変更・廃止によって消費者に生じた損害について、ALPACAが一切責任を負わない旨を定める条項
⑤ ALPACAのシステムの中断・遅延・中止、データの消失等によって消費者に生じた損害について、ALPACAが一切責任を負わない旨を定める条項
⑥ 消費者に生じた損害について、軽過失の場合にALPACAが一切責任を負わない旨を定める条項
⑦ 消費者に生じた損害について、ALPACAの損害賠償責任を、消費者が過去12か月間に支払った対価の金額に限定し、付随的損害、間接損害、特別損害、将来の損害及び逸失利益に係る損害については責任を負わない旨を定める条項
(理由)
ア 本件条項①について
事業者の債務不履行の場合には民法第541条又は第542条により消費者は契約の法定解除権を有するところ、本件条項①は、ALPACAに起因する商品の不具合及び申込みと異なる商品の提供というALPACAの債務不履行の場合に、消費者が有する法定解除権を放棄させるものである。
よって、本件条項①は、消費者契約法第8条の2に規定する事業者の債務不履行により生じた消費者の解除権を放棄させる消費者契約の条項に該当し、無効である。
イ 本件条項②について
申込みと異なる商品の交換は契約不適合責任の一つである代替物の引渡し(民法第562条第1項)であると解されるところ、代替物引渡しによる履行追完請求は、任意規定である民法第566条により、買主がその不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しないときは請求できない旨の権利行使制限が設けられている。本件条項②は、商品到達後7日以内に消費者がカスタマーセンターに連絡しない限り、商品の交換に応じないとするものであり、任意規定である民法第566条の適用による場合に比して消費者の権利を制限する消費者契約の条項に該当する。
また、本件条項②による交換対応期間は、商品到達後7日以内と極めて短く設定されている上、商品到達から8日以上を経過した商品の交換については、理由の如何を問わず一切応じないとするものであり、信義則に反して消費者の利益を一方的に害する条項に該当する。
よって、本件条項②は、消費者契約法第10条に規定する消費者契約の条項に該当し、無効である。
ウ 本件条項③について
事業者の債務不履行の場合には民法第541条又は第542条により消費者は契約の法定解除権を有するところ、その行使は任意規定である民法第540条により相手方に対する意思表示によってするものとされ、また、解除の効果は任意規定である民法第545条第1項により相手方に対して原状回復義務を負うものとされている。
本件条項③は、ALPACAに起因する商品の不具合及び申込みと異なる商品の提供というALPACAの債務不履行の場合についても適用されると解されるところ、解除権の行使の要件として、解除の意思表示のみならず、ALPACAの承諾、説明に対する同意又はキャンセル料の支払いを要件とするに等しいものであり、任意規定である民法第540条の適用による場合に比して消費者の権利を制限する消費者契約の条項に該当する。また、本件条項③は、解除の効果として原状回復義務のみならず、キャンセル料の支払義務を課すに等しいものであり、任意規定である民法第545条第1項の適用による場合に比して消費者の権利を制限する消費者契約の条項に該当する。
そして、本件条項③は、ALPACAに起因する商品の不具合及び申込みと異なる商品の提供という消費者に何ら落ち度がなく、ALPACAの一方的な債務不履行の場合についても上記のとおり消費者の権利を制限し又は義務を加重するものであり、信義則に反して消費者の利益を一方的に害する条項に該当する。
よって、本件条項③は、消費者契約法第10条に規定する消費者契約の条項に該当し、無効である。
加えて、本件条項③は、解除の事由や時期等の区分によらず、一律に3万円のキャンセル料の支払いを求めるものであり、解除に伴いALPACAに生ずべき平均的な損害を超える部分については、消費者契約法第9条第1項第1号により、無効である。
エ 本件条項④について
ALPACAの運営するウェブサイト上のサービスの変更・廃止は、ALPACAの債務不履行に該当する場合があり得るところ、本件条項④は、消費者契約法第8条第1項第1号に規定する事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除する条項に該当し、無効である。
オ 本件条項⑤について
ALPACAのシステムの中断・遅延・中止、データの消失等は、ALPACAの債務不履行に該当する場合があり得るところ、本件条項⑤は、消費者契約法第8条第1項第1号に規定する事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除する条項に該当し、無効である。
カ 本件条項⑥について
消費者契約法第8条第1項第1号及び第3号は、事業者の債務不履行又は不法行為により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除する条項について、無効と規定しており、事業者が軽過失の場合についても同様である。本件条項⑥は、ALPACAが軽過失の場合であっても一切の責任を免除する旨の条項であり、消費者契約法第8条第1項第1号及び第3号により無効である。
キ 本件条項⑦について
消費者契約法第8条第1項第2号及び第4号は、事業者の債務不履行又は不法行為により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除する条項について、事業者が軽過失の場合には有効であるが、それ以外の場合は無効と規定している。本件条項⑦は、ALPACAに故意又は重過失がある場合についても債務不履行又は不法行為により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除する条項であり、その範囲で消費者契約法第8条第1項第2号及び第4号により無効である。
(※1)消費者契約法
(事業者の損害賠償の責任を免除する条項等の無効)
第八条 次に掲げる消費者契約の条項は、無効とする。
一 事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除し、又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項
二 事業者の債務不履行(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除し、又は当該事業者にその責任の限度を決定する権限を付与する条項
三 消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除し、又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項
四 消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除し、又は当該事業者にその責任の限度を決定する権限を付与する条項
2・3 [略]
(消費者の解除権を放棄させる条項等の無効)
第八条の二 事業者の債務不履行により生じた消費者の解除権を放棄させ、又は当該事業者にその解除権の有無を決定する権限を付与する消費者契約の条項は、無効とする。
(消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効等)
第九条 次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。
一 当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの 当該超える部分
二 [略]
2 [略]
(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
第十条 消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。
注)上記の差止請求が行われた日現在の規定