本件は、適格消費者団体である特定非営利活動法人消費者被害防止ネットワーク東海(以下「消費者被害防止ネットワーク東海」という。)が、RIZAP株式会社(以下「RIZAP」という。)に対し、RIZAPが運営する「chocoZAP」の利用規約の下記条項(以下「本件条項」という。)について、消費者契約法(以下「法」という。)第8条第1項第1号及び第3号、第9条第1項第1号並びに第10条(※1)に規定する消費者契約の条項に該当し無効であるとして、下記のとおり本件条項の削除又は修正を求めた事案である。
ア 本件条項
1 支払処理が完了した利用料は、理由を問わず返還しないとする旨の契約条項
2 気象・災害等によりRIZAPが営業困難又は不可能と判断したとき、法令の制定、改廃等その他やむを得ない事由が発生したとき、RIZAPの判断によりサービスが停止、拡充又は縮小したとき等の理由により、RIZAPは本サービスの全部又は一部を変更することができ、これに対して会員は利用料の減額又は返金を求めることはできないとする旨の契約条項
3 本サービスの利用に当たって発生した紛失、盗難、傷害その他の事故について、RIZAPは、故意又は重過失による場合を除き、一切の責任を負わないとする旨の契約条項
4 会員との間で訴訟の必要が生じた場合、東京地方裁判所又は東京簡易裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする旨の契約条項
5 休会手続について、専用アプリにおいて、各月10日までに手続を行った場合は、翌月以降休会でき、各月11日以降に手続を行った場合は、翌々月以降休会できるとし、プラン契約月と翌月分まで既に決済が完了している場合は、最短で翌々月から休会となる旨の契約条項
6 退会手続について、専用アプリにおいて、各月10日までに手続を行った場合は、当月の末日をもって退会となるとし、各月11日以降に手続を行った場合は、翌月の末日をもって退会となる旨の契約条項
7 年間プラン会員について、割引を前提とした年額プランのため、契約期間中の退会による返金は一切行わないものとする旨の契約条項
8 カラオケサービス、ピラティス、セルフエステ等において、サービスの利用に当たって発生した事故やトラブルについて、故意による場合を除き、RIZAPは一切の責任を負わないとする旨の契約条項
9 セルフネイル、セルフホワイトニング及びランドリーサービスにおいて、サービスの利用に当たって発生した事故やトラブルについて、RIZAPは一切責任を負わないとする旨の契約条項
イ 理由
1 上記1の条項は、支払処理が完了した利用料について、理由を問わず返還しないこととしているが、RIZAPの責めに帰すべき事由により会員が退会せざるを得なくなる場合、法定の無効、取消し又は解除の事由がある場合及び店舗の廃止・移転・休業・利用制限などの場合であっても既払いの会費を返金しないのであれば、消費者の利益を一方的に害するものであり、法第10条に該当し無効である。
2 上記2の条項は、自然災害や法令の制定などRIZAP及び会員双方の責めに帰することのできない事由によって、RIZAPが債務を履行できなくなった場合も返金をしないとしており、当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行できなくなったときは、債権者は反対給付の履行を拒むことができる旨を定める民法第536条第1項の適用による場合に比して消費者の権利を一方的に制限するものであり、かつ、自然災害などによりサービスの提供ができない場合におけるRIZAPの損害も観念できず、合理的な理由もないことから、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであり、法第10条に該当し無効である。
3 上記3の条項は、RIZAPに過失又は信義則上これと同視すべき事由といった帰責事由がある場合にも、RIZAPの債務不履行及び不法行為責任を全て免除するものであり、法第8条第1項第1号及び第3号に該当し無効である。
4 上記4の条項は、地方在住の会員が訴訟を行う場合、東京に行く必要を生じさせるものであり、RIZAPは全国の会員を相手に役務を提供しており、全国で紛争が発生する可能性があるところ、RIZAPが得る利益に比して会員の被る不利益は多大なものになるため、消費者の利益を一方的に害するものであり、法第10条に該当し無効である。
5 上記5の条項は、会員による休会の意思表示の受付期間を毎月10日までと限定し、毎月11日以降の休会の意思表示の効力発生時期を翌月末へ先延ばしするものであり、合理的な理由なく、会員による休会の意思表示の効力発生時期を翌月末に遅らせ、消費者の契約解除権を制限するものである。また、RIZAPは会員の入退館をアプリで管理しており、休会の意思表示の効力発生時期を当該意思表示のあった月の末日として管理することも容易と考えられ、さらに、休会の理由や意思表示の後の利用の有無を問わず、一律に翌月分の月会費の支払義務を負わせ、不合理に消費者の義務を加重しており、法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限するとともに義務を加重するものであり、法第10条に該当し無効である。
6 上記6の条項は、会員による退会の意思表示の受付期間を毎月10日までと限定し、毎月11日以降の退会の意思表示の効力発生時期を翌月末へ先延ばしするものであり、解除に伴う損害賠償の予定を定めた条項に該当し、かつ、会員に施設利用その他のサービス享受はなく、RIZAPに発生する損害は考え難いことから、平均的な損害の額を超える部分について、法第9条第1項第1号に該当し無効である。
また、合理的な理由なく、会員による退会の意思表示の効力発生時期を翌月末に遅らせ、消費者の契約解除権を制限し、かつ、RIZAPは会員の入退館をアプリで管理しており、退会の意思表示の効力発生時期を当該意思表示のあった月の末日として管理することも容易と考えられ、本条項は、退会の理由や意思表示の後の利用の有無を問わず、一律に翌月分の月会費の支払義務を負わせ、不合理に消費者の義務を加重しており、法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限するとともに義務を加重するものであり、法第10条に該当し無効である。
7 上記7の条項は、会員が入会後すぐに退会などをした場合にRIZAPに生ずる損害は想定できないにもかかわらず、解除の事由や時期等を限定する文言を定めず、一律に返金しないものとしており、平均的損害を超える違約金等を定めるものに該当し、平均的な損害の額を超える部分について、法第9条第1項第1号に該当し無効である。
8 上記8の条項は、RIZAPに過失がある場合であっても、RIZAPの債務不履行及び不法行為責任の全部を免除するものであり、法第8条第1項第1号及び第3号に該当し無効である。
9 上記9の条項は、会員に、自身の行為の結果について一切の責任及び生じた損害を負担させ、RIZAPに債務不履行や不法行為がある場合においても、会員に生じた損害を賠償する責任の全部を免除するものであり、法第8条第1項第1号及び第3号に該当し無効である。
(※1)消費者契約法
(事業者の損害賠償の責任を免除する条項等の無効)
第八条 次に掲げる消費者契約の条項は、無効とする。
一 事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除し、又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項
二 [略]
三 消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除し、又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項
四 [略]
2・3 [略]
(消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効等)
第九条 次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。
一 当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの 当該超える部分
二 [略]
2 [略]
(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
第十条 消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。
注)上記の差止請求が行われた日現在の規定